第19話

リオランガフェス開幕(前準備)


 3月、リオランガフェス当日。

 

 この日の空は祭りを祝福するかのように蒼く澄み渡り、地平の向こうまで雲が見えないほどであった。


「諸君、我らが敬愛なる第3王子、レオガルド様の御前である。一同、敬礼!」

「ハッ」


 副団長らしき人の号令と共に、騎士団は敬礼を行う。それに倣い周囲の観客も簡易的な敬礼を行った。

 そして、俺と大将もまたそれに倣う。

 緑の魔石がくっ付いた短めの杖――見た目はほぼマイクの形をした棒状の道具を片手に、1人の青年が特設ステージへと上がる。

 

『――今日は実に良い日だ。このリオランガフェスの開催を願った我が父上も、さぞお喜びであろう――』


 公園の広場に、遠くに見える城をバックに設営されたステージに居るのは、この国の第3王子レオガルド・オルステッド――と、大将から聞いた。

 銀の髪、引き締まったスポーツ選手かのような顔立ち。30歳ほどで、この街を中心とした広大な土地の管理を任されているという――いわゆる領主みたいな感じだろうか。

 第3騎士団を所有しており、有事の際には自身が指揮官になるほどの勇猛果敢ゆうもうかかんぶりだという。


 正直、現場の人間からしたら邪魔だろうなぁ――と、騎士団の皆さんには同情する。

 

『私もこの街の料理は大変素晴らしいモノが多いと思っている。幼少の頃は、よくお忍びで市場の料理屋に行っては、教育係に怒られたものだ。あの時の白いスープは美味かった――』


 柔和な笑顔で小粋なトークも交えながらも、観客の様子を伺っているようだ。

 

 ちなみにアグリさんもこの騎士団に所属しているので……当然、例の白い鎧を着て王子の傍らに立っている。

 金髪のアグリさんに、銀髪の王子は絵的に映える組み合わせなのだろう。

 先ほどから周囲の女性の皆様がソワソワしながら小声で「ああ、アグリ様とレオガルド様。どちらもお美しい――」とかそんな声が聞こえる。

 

(……なんで隣に居るんだろうか。やはり彼女は何かしらの要職なのだろうか)


『――では、挨拶はこのくらいにして……皆の者、今日と明日は楽しんでいってくれ!』


 ワア――ッ!

 

 周囲の歓声の声で、ようやくスピーチが終わったと気付く。

 王子はアグリに付き添われて、馬車へと乗った。これから城へ帰るのだろう。


「よーし、それじゃあ旦那! 今日はよろしく頼むぜ!」

「ええ。頑張りましょう」


 俺も大将も、互いに目の下にクマを付けながら、握手を交わすのだった。

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