異世界への鍵を持つ者達19

「はぁ……はぁ……クソが」


 闇の中で、1人の男が息を切らしていた。

 その男の服はボロボロとなってしまい、ほぼ半裸状態だ。

 貧相な体つきが月夜に照らされる――。


「金の鍵、奪っといて正解だったぜ」

 

 その男は、芝田だ。

 騎士団に拘束された後、周囲に監視を付けられた状態のまま檻へと入れられていたのだが――一瞬の目を盗み、靴の中敷きに隠しておいた“1”の書かれた金の鍵を使い――ある場所へと戻って来ていたのだ。


「ここにはまだまだとっておきの海産物達が居る――武器も食料もまだまだ備蓄してある――」


 魔王国の端の端。

 山の中に大きな洞窟があり、そこと海が繋がった場所が芝田の本拠地だった。

 

「少し時間が掛かるかもしれんが――またもう1度バカ達を使って傭兵部隊でも作るか……ん?」


 その本拠地の生け簀には、他の海産物達が居るはずなのに――妙に静かであった。


「どういう事だ――」

「お前が、ここの主か」


 灯りの無い生け簀の傍に、1人の大男が立っていた。

 黒い外套を身に纏い、銀色のオールバックな髪型の――精鍛な顔つきの、中年の男だった。


「誰だ貴様!」


 芝田は拳銃を突き付けるが、男は意にも返さず言葉を続ける。


「ここの魔獣は、先ほど我が部下が引き取ったぞ。こんな狭い場所で飼われて居ては、窮屈だろう」

「誰って言ってんだよ!」

「名前なら――騙ったお前がよく知っているだろう――」


 男は芝田へとゆっくり歩いてくる。


「く、来るなッ!」


 向けられた銃口から弾丸が飛び出すが――その弾が、男へ届く事は無かった。

 男の周囲に纏った黒いオーラが、それを防いだのだ。


「――我が名は魔王オルディン……エルドラド・バーン・オルディンだ」

「う、うわぁあああ!?」


 芝田は即座に逃げようと振り返るが――その身体もまた、黒いオーラが纏わりついている。


「貴様には、我が国で色々と好き勝手してくれたお礼をせねばな……」

「こ、殺さ、殺さないで……」

「安心しろ。ちゃんと弁護人は付けてやる――」


 オーラは芝田の口元まで覆われ、時期に意識を失った。


「ころさ――うっ」


 静かになったのを確認してオルディンは振り向き、闇の中へと声を掛ける。


「オーヤ、そこに居るな」

「はい、魔王陛下」


 芝田は気付かなかったがもう1人、闇に紛れていた女性が居た。大家だ。

 ただ、いつものようなだらしないTシャツとジーパン姿だったが。


「この男は貰っていくぞ」

「もちろんご自由にどうぞ――異世界人の処遇については、私は干渉してませんので」

「……ではなぜ、俺をここへ呼んだ。それも干渉なのではないか?」

「――その男は、鍵に関する罪を犯しましたので……」

「罪?」

「具体的な内容は禁則事項ですが――世界の安寧を壊そうとする者達が居る……とだけ、申しておきます」

「――忠告として、受け取っておこう」


 大家は再び闇に紛れ――その気配が焼失したのを確認すると、オーラで拘束した芝田を担ぎ上げるオルディン。


「――急がねばな」


 月の光は――世界を変わらず照らしていた。

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