第11話

女騎士が油そばを食べる1

 リオランガ城の敷地内にある騎士団本部の中庭。

 ここでは週1回、全員を集めての提示報告会が開かれる。



「アリアン騎士団長に、敬礼ッ!」

『ハッ』


 私の目の前で、一鎧を纏った騎士達が一糸乱れぬ敬礼を行う。

 

「休めッ」

『ハッ』


 掛け声と共に腕を降ろし、両手を腰の辺りに回す騎士達。

 人種こそバラバラだが、彼らの瞳は誰もがこの国を護るという使命に、気概に満ちている。


「魔王軍との休戦協定が結ばれて以来、周辺の隣国はもちろん我が国でも混乱の兆しが見える。特に、この期に乗じて国内で破壊活動、窃盗や暴行事件を働こうとしている不埒者の報告も上がっている。諸君らの使命はなんだッ!」


『民を護ることですッ!』


「そうだッ! これまで以上に警備に力を入れるようにと国王様も仰せだ……後は、副団長」

「ハッ。アリアン騎士団長よりお言葉があったように――」


 ■◇■◇■◇■◇■◇■◇■ 

 


 午前中の業務が早めに終わったので、城下町の喫茶店で遅めの朝ご飯を食べていると――。


「あっ、アリアン様よ……」

「お声掛けしても大丈夫なのでしょうか」

「どうしましたか。お嬢様方。もちろん私は構いませんので、こちらに御掛けになって下さい」


「「きゃぁ~~ッ!」」


 私が促すと、2人は何故か悲鳴を上げてしまった。

 

 

「アリアン様は最近、どのような休暇をお過ごしになっているんですか?」


 裕福そうなドレスを着た2人組だ。

 恐らくは貴族の娘なのだろう。高級そうな甘い香りのする香水が、こちらまで漂ってくる。

 

「そうですね――この間の夏は、騎士団からペガサスを借りて南の湖で釣りをしていました」

「まぁ。アリアン様は釣りをおやりになるのですね」

「でも夏の間は凶暴な魔物も出るとかで……」

「えぇ。ヌシと呼ばれる凶暴な魔物も出たので、私が1人で討伐しておきました。やはりあのような魔物を野放しにしていると、いずれ民の皆さんに危険が及びますからね」

「まぁさすがアリアン様! たった1人でそのような魔物を倒してしまうなんて、素晴らしいわ」

「休暇中でも我々の事を考えて下さるなんて……素敵ですわ」


 それからも他愛のない雑談を交えつつお茶と焼き菓子を食していると、他の客達の会話が耳に入る。


「おい知ってるか。市場のオーガの大将がやっている店に対抗して、最近“油そば”っていう料理を出している麺料理屋がこの城下町に出来たらしいぞ」

「凄い行列らしいな。夜に食いに行きたいけど、1時間以上待つんだってよ」


 私の知らない店の情報だ。

 最近は仕事の忙しさもあり、他の店のチェックをしている暇があまり無いのだ。


 この街には多様な種族が、様々な理由で出入りをしている。

 その為、色んな種族の商人が持ち込む商品――特に食材に関しても豊富さは我が国の自慢の1つである。

 そういった食材を使った料理店、屋台は年々増加傾向にある。魔族との戦争が休戦となってからは、特に顕著けんちょだ。

 同時に、トラブルも増えて騎士団や自警団の巡回も増えた。


 故に――騎士団長である私の仕事も増えている訳だ。

 

「まぁ油そばですって」

「野蛮な人達が好きそうな名前ですわね、ホホホ」


 聞いた事の無い料理……名前からして大将の店の塩そばに似ているのだろうか。

 形状は、味は、香りは、量は、店はどんな場所にあるのだろうか。


「あれって城下町のどこだっけ」

「7番区の路地裏って聞いたけど」

 

(食べて見たい――)


「そういえば最近、パティシエールより仕入れた美味しいクッキーを手に入れましたの。団長様、ぜひ我が屋敷にいらしてください」

「ずるいですわ。私も、お父様に頼んで異国の珍しいお茶を手に入れましたの」

「じゃあ、3人でお茶会をするのも良いかもしれませんわ」

「それは名案ですわ」


 目の前の彼女らが何か言っているが、既に私の頭の中はその“油そば”の事で一杯だ。

 そのお茶会――どういった理由で断るか思案しつつ、私は茶を飲むのであった。

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