М・ブラスト!!

西之園上実

俺は俺。俺が俺であるために……

ほしいものもない。

いらないものもない。


全部どうでもいい。


だからといって別に生きている意味なんてないなんて大それたことは言わない。


ただどうでもいいって感じ。


なんたら高校。

なんていったっけ……自分の入った高校の名前が思い出せない。

今日だって登校したのは昼過ぎになってからだ。

『もう入学して一週間だっていうのにまともに来た日は1日も無いじゃないか!』

入学したころ、そんなことを教師から言われて、

『高校にも担任っているんだな』

程度の事しか思わなかった。

その場は「学校までの道を忘れてしまって」でやり過ごした。


教室はいつもうるさい。


ほんの数週間前まではシーンとしていたのに、ここ数日で一気に雰囲気が変わった。

なんとなく、少しづつ、他人が分かってきたんだろう。

えーっと、なんだっけ、あれだ、あれ。

すくーるかーすと? とかいうのが出来始めている。

一軍。

普通組。

あとその他。

そんな感じで。

俺はどこらへんなのか、そんならしくない考えも、この風景を数日見ていたら考えてしまう。


1日が長い。

高校生になってまず感じたのは時間の感覚が無くなったことだ。


とにかく自由。

いや、授業はあるし、宿題もある。

でも、出なくていいし、やらなくてもよかった。

自己判断、自分のケツは自分で拭けばいい感が俺の中でデカくなった。


そうなったことで俺の時間は増えた。


最初はバイトでもと考えたが、それには目的がなかった。


俺の家は母子家庭で、俺と母親の二人暮らし。

だからといって別に金銭的に困ってはいない。

それは、母親が弁護士で、自分の事務所を構えているほどのやり手だからだ。


あ! 思い出した! 県内で屈指の有数なとこだ、この高校。

生憎、名前はまだ思い出せないが。


言っておくが、俺はバカじゃないからな。

小3から勉強という勉強をしなくなったが、学業という点に於いてここまで惰性できた。

それでこの程度だ。


「『青天の霹靂』。えー、みなさん、この言葉を知っていますか? 青く晴れた空に突然におこるかみなり。要は、思いがけない突発的な出来事。そして、これはというところが重要です。」


今日これが最後の授業。

なんか、国語的な名前の科目だ。

その教師が言ったこの言葉だけが、今日唯一俺が聞いた他人の言葉だった。


さて帰るか。

ここまでは自宅から自転車だ。

帰りはよかった。

登校時、ここまで来るに最後の最後で急勾配の坂道がある。

いやというか、めんどくさかった。

けれど、これが高校に行くということへの拒絶の要因にはなっていない。


気分だ。

俺の気分。

それがすべて。


駐輪場で自分の自転車にまたがる。

もたもたとペダル漕ぎ始め、蛇行しながら帰路につく。

急いぐこともない。

やることもない。

やっぱりどっちでもいい。


俺の毎日はこんな感じの1日だ。


いいだろう。

うらやましいだろう。

やることもない。

やらなくちゃいけないこともやらない。

気分だ。

優雅だ。


だけど不自由だ。

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