Gifted.

ネック。

母さんが教えてくれたその場所の表面を俺の左指がそれぞれに動く。


シルリルリリッ! シリルリレル! シレルリルル! と。


順番はデタラメ。でもそれは、誰しも知っているもの。

ドレミファソラシド。

その音、だった。


シリリリレレッ! シルルリリレ! シリリリリリッ!


あれ? でも、おかしい……。

確かに、今動いている指はずべて俺の意思で動かしている。

けれど、なにか違う……。

あまりにも自然で、頭でというよりは、体でそうしているような。

俺の指があるような。そんな妙な感覚。

「思い出したな」って母さんが言っていたんだから、俺は小さかった頃こうしてギターを弾いていたんだろう。

でも、けれど、それにしては、もっと他の。奇妙で、それでいて清々しさもある。そんな感じだ。


「にしても、体で憶えたものは絶対に忘れないというが、ここまでとなると、なあ、天」


母さんは憶えてる。

でも、俺は少しそれとは違った感じ……えてる。ではなくて、えてる。そんなふうな感じ。

記憶以前の、もっと、こう。

言ってしまえば、生まれる前から知っているような……。


「でも驚いたな、あの時は」

「それって俺が小さかったころ?」

「ああ。だって、そいつを渡した瞬間にそうやって弾いたんだから」

会話しながらも俺の指は動き続ける。動かし続ける。

「今みたいにそんなしてじゃなかったけど、でも、今とそう大して変わらないとゆうか……ん?」

「だよね。そうなるよね。


ある意味機械的でもある。

でも、それは精度に関しての話。

今のこの音色はそんなもんじゃ決してない。


「――天。そうやって弾くのをなんていうか知ってるか?」

「知らない」

「ギターってのは色んな弾き方があってだな、そん中でも、お前のその弾き方は特別スペシャルであり、臨界点クリティカルでもあるものなの」

「……臨界点」


小さく、静かに、でも確実に、俺と、俺のレスポール・ゴールド・トップはを鳴らし続ける。続けている。


「legato(レガート)、sweep(スウィープ)。いろんなやり方はあるけれど、要は日本語で言うところの『速弾き』だ」


この『シルリ』と鳴っている音色。

レガート……スウィープ……速弾き。


「久しぶりに聴いたけれど……うん、やっぱり綺麗な音ね」

綺麗?

騒音じゃなくて?

「荒く、熱い。けれど、清らかで清々しい……不思議な音だな、お前の音は」

そこまで言うと急に母さんは黙り込んでしまった。

心配になって覗き込むように母さんの顔を見てみると、まだ口元は動いていた。


「ねえ母さん」

俺は呼びかける。

「なんだ?」

顔を上げた母さんの瞳は少し赤く変わっている。

「なんでうちにギターがあるの?」

もう左手と右手は動いていない。

俺は弾くのをやめる。

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