Gift.
それは、金色というには暗く、黄金というにはくすんだ色。
でも、どこまでも深く。
そして、ゴールド色だった。
俺はケースからそれを取り出す。
今日あの店で見たものと同じ形、同じ重さ。
でも、今手にあるそれは、俺のエレキギターだった。
「あれ?」
「気づいた? だから言っておいたのに」
異変に気づいたとき、俺は先輩のドラムと一緒になって弾いた時。今日あの店で弾いた時と同じようにして構えていた。
右手、その親指と人指し指の違和感。
「足らない」
「そうよ。そのギターには2弦しか張られてないの」
「2弦……しか?」
言った瞬間気づいた。
俺が今まで弾いていた弦がその2弦だけだったことに。
「言っておくが他の弦は最初から無いからな。それはあいつが……」
「あいつ?」
オホン! と母さんが何かをごまかすように咳払いをする。
「いいから! はやく弾いてみろ!」
そこに続けて俺に弾けと急かす。
どうしていつもみんな俺にそんなに「早く弾け」と急かすんだろう。
「分かった……」
俺は例のごとく一音、2弦だけを親指で彈く。
シーン。
一瞬彈いていないかと思った。
急いでもう一回同じように彈く。
シーン。
そういう音だった。
この、俺の、エレキギターは。
「そんな顔するな。当たり前だ、アンプにつなげてないんだから」
「あ、そうだった」
その言葉は母さん、そして店長の二人に言っていた。
「にしても、天。その左手はなんだ?」
「え? 左手?」
俺はバランスを保つため、無意識にギターの先っちょのほうを左手で掴んでいた。
「そんなところ持ってたら弾けないだろ?」
「えっ?」
弾けない!? そこまでは出なかった。
だって、もしそうなら今の今まで俺はギターを弾いていなかったことになってしまう。
「昔はそんなふうに弾いてなかったろ。忘れたのか?」
そういうと母さんは立ち上がり俺の背後に回る。
母さんの左手が俺の左手を。母さんの右手が俺の右手を押さえる。
「ちょい!?」
なんだか恥ずかしくなって俺は妙な声を出してしまう。
「いいから! 左手はこうしてだな……」
母さんの指が俺の指に絡む。
「ネックを包むようにして、親指は他の指を支えるからこのままで、お母さん指からこうして……」
器用に自分の指と俺の指をシンクロさせて順に、お母さん指、お兄さん指、お姉さん指、あかちゃん指とそう言いながら動かしていく。
「おい! なに照れてるんだ! 同時にこうして右手で弾くんだよ!」
そんな事言われても、俺の神経は左手の指先に全部集中してしまっている。
シシシシシ、シシシシシ。
「あ!」
相変わらず音は小さく鳴るだけだった。
しかし、そこには今までなかったものが生まれていた。
『音階』が。
「しししっ! そうそう! そうだ! 思い出したな!」
母さんは俺の指からすでに自分の指を離していた。
違う。
俺がそうしていたんだ!
滑るように、でも確実に、音を、音色を俺の左指すべてが奏でていた。
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