チューニング?

って、私と?」

頭を上げたのは同時だったが、その言葉が自分に対してだと感じた先輩が先に聞く。

「そうよ。私も今年で高2だから、同級ね!」

「そっか……そっかあ! しししっ、うん、よろしく!!」

得意の全力疾走で彼女に近づくと、思いっきり例の両手握手を先輩がした。

「よ、よろしく……」

やはり少したぢろんで柾木環がそう答える。


「って、おばあちゃん、さっきこの人達が客だって言ってなかった?」

「そうだよ。わざわざこんな辺鄙へんぴなとこまで来てくれたんだ、早速見てやんな」

「うん! わかったわ!」

そういうと軽トラックの荷代からギターケースだけを手に取り、先輩に負けないくらいな全力疾走で柾木楽器店と書かれた建物の中に入っていってしまった。


「あの、あの子は……」

段飛びに交わされる会話についていけず、俺はおばあさんに聞いてしまう。

「環は私の孫なのよ。あんななりだけどウデは確かだから。まかせておいてもらえるかしら」


ウデとは?

俺は、なんのことを言われたのかさっぱりだった。


「そういうことでしたら。はい、分かりました。環さんにお任せします」

「そうしてもらえると嬉しいわ」

ニッコリと俺達に笑い掛け、おばあさんは本宅であろうそっちの方に入っていってしまった。


「どういうこと、ですか?」

自分だけが取り残されているような感覚に僅かに苛立って先輩に聞く。

「ん? なに、簡単よ! あなたのギターを環がしてくれるってことよ!」

いや、そんなウインクしながらグッ! ってされても。


「あーーーーー!」

この広大な敷地をいいことに、毎度の大声を突然先輩が出した。

「……どうしたんですか?」

「まだ見てない…」

「は?」

「私まだ天くんのギター見てない!」

「はあ」

をあの子に取られる!」

「は、はぁ」

「ちょっと私行ってくるわ!」

そう言い残し、先輩がお決まりなそれで環さんが入っていった建物の中になんの躊躇いもなく入っていってしまった。


そうして俺だけがひとり、無目的で、無防備な形で取り残されてしまう。

なんだか最近こんなことが多い。

周りが勝手にそういう流れを作って、俺はただ流されるだけ……。

判断とか、ましてや責任なんて皆無で、ただ連続していく場面に対応していくだけ。

まるで、俺じゃない誰かの人生を再生して、それをボーッと観ているだけみたいだ。

だからだろうか。

「気持ちいい」という感覚。

自由を手にした感覚。

それに最近強くすがってしまっている。


なんだか惨めだ。

俺にはそれしかないのか。

だから今俺のまわりにいる人達は、に俺を巻き込むのか。


なんだか淋しい。

俺だって……。


「そんなところに独りで立ってないでこっち来てお茶の続きでもしましょうよ」

呼びかけられたその音はなんだか母さんの音と似ていた。

「うん」

だからそんな返事のようでそうでない音でつい返事をしてしまった。

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