ルイトモ?
誘われてからは実にスムーズで楽ちんだった。
おばあさんの運転する軽トラックに乗せてもらえることができたからだ。
運転席にはもちろんおばあさん。実に手馴れた感じで軽快なドライビングだ。
助手席には俺。
そして、荷代にはギターとアンプ。それらと一緒になって先輩が乗っている。
「ヤッホー! ウーン、キモチイイーーー!」
奇声のような叫び声を出して、先輩は風を顔面いっぱいに受けている。
「落っこちないでよ! 結構凸凹だからこの道」
窓から運転に支障のでない程度に顔を出してすぐ後ろにいる先輩に向かっておばあさんが声を掛ける。
「はーーーい!」
「まったく、あなた達二人とも変な子ね」
「あの人だけです」
そんな感じで五分くらい走り進むと、見渡す限り田んぼしかなかった一本道、その終点のように門のようなものが見えてきた。
「さあ着いたよ」
「……」
自分の家なんだからその反応はあたりまえなのだが、ここに初めて来たひとは全員俺みたいなリアクションに百パーセントなるはずだ。
「うわー! ひろーい!」
先輩があいかわらず能天気な声を出し、そのまま口を大きく開けている。
俺は俺で、無言のままで同じようにただ口をポカンとあけることしかできなかった。
「あれ? ばあちゃん、お客さん?」
「ああ、そうだよ。それに客でもある」
その言い方が俺に、広大な敷地にある豪邸よりも先に、横にポツンと建てられた離れのような小屋に目を向けさせた。
「ああ、なるほど。そういうことね」
その人物は、軽トラに積まれていたギターとアンプを確認するとそういった。
『柾木楽器店』
眩むほどの黄色。
そこに、切り抜かれたような赤字でそう書かれていた。
「これ君の?」
俺にそういってきたのは、先輩と同じくらいの身長。けれど後ろ髪は綺麗に短く切りそろえられていて、前髪は眉スレスレのところで真水平になっている。
まるで、実際に見たことはないが、『座敷わらし』それだった。
「ねえ、聞いてるんだけど?」
「えっ、あ、うん。そう」
そんな容姿のせいか、思わずタメ口、それどころか、心境としては小さな女の子に話しかけているふうになってしまった。
「ずいぶん大層なモン持ってんのね、その歳で」
「は?」
「あんたにあれ使いこなせるの? そんな
「な!?」
「でもアンプは安物ね。そこだけは……うん、納得」
「……」
なんだこいつ。ナマイキ。
「あらー、かわいい! お家の方かしら? あなたお名前は?」
「なっ!? なんですかあなたは? 失礼ですよ!」
「あんたの方がよ!」
「痛っ!?」
おばあさんが何の躊躇なく、座敷わらしの頭にげんこつをくらわす。
「ごめんなさいね。ほんとにこの子は」
そう言いながら頭を下げ、同時に小突いた手をそのままに無理やり座敷わらしの頭を力ずくに押さえお辞儀をさせた。
「いえ、全然!」
俺は、そこまでされたことに驚いて、手をブンブン左右に必死に振りながら、同じように頭も振った。
「ほら、ちゃんと挨拶しな!」
「……です」
「え?」
「また小突かれたいかい」おばあさんがその構えだけする。
「
そう言って今度は自分から頭を下げた。
「ご丁寧にどうも。風間天です。」
「先程は失礼しました。私は天地鳴です。十六です。」
俺達は息を合わせたように頭を下げ挨拶する。
「なあんだ、おないじゃん」
その言葉に俺達は、寸分狂うことなく素早く顔を上げた。
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