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「いつの間に!?」

「うおっと!? 押すなって!」

「こんなにたくさん!」

「頑張れ、天」

「見せてよね、鳴」


はじめ、見に来てくれていたのは、環さん。店長。顧問。母さん。それに響さんだけだった。

始める前から続く灰色の空からは今、静かにひとつ、ひとつと、雨が降ってきている。

繊細でかろうじて存在する光を浴びせた。

この雨に光を当てて虹を生み出した。

届けた音と、越えていった音を聴いて、人たちが集まってきた。


『月光』、『Over the Rainbow』の二曲はこのために演奏した。


謹厳実直、理路整然していて、まさに演奏。俺のギター、先輩のドラムは、そんな音を


「なにかと思ってきてみたけど。驚いた、ギターとドラムだけだったんですね」

みなもとさん。来てくれないと思ってました」

「来てくれっていっておいてそれはないでしょ。奏さんが気になるようなバンドならぜひ聴いておかなきゃ、そう思ってね。でも……これじゃ」

「ダメ、ですか?」

「正直、そうだね。まるでなってない。場所や設備なんかは、そこはほら高校生だから難しいことはあるけれど、でも、だとしても、できることはある」

「要は、あまいってことですか?」

「ん? あれ、なんか怒ってる?」

「……いえ、そんなことは」

「でも、そうだね。どちらかといえばやっぱり同じギタリストとしては彼だね。明らかに経験不足。奥行きが感じられない」

「奥行き……ですか」


我慢してきた。ここまで。

目的のために、徹底的に完璧ということにこだわって演奏してきた。

やってみて分かった。

難しいことは楽しい。

一音一音を追って、またそれを今できる自分の技術でもって表現する。

まるでプロだ。

昨日見た、あの人達の演奏は凄かった。ここにきて本音で言える。

洗練されていて、初めて聴いたのにミスなんてあるはずがないと思えてしまうほど余裕があった。

あるものに満足せず、さらに上手く、観客を楽しませるためにという気概に満ちていた。


「きっと練習する時間も、状況も作れなかったんだろうね。でも、そんなことは今ここに来てもらっている観客には関係のないことだから、言い訳には決してできない」

「そうですね……」


「三曲目。ラストです――黄金の嵐。」

これで最後。


取り囲むようにしてできた観衆は、まだ半信半疑といった感じだ。

公的じゃない。学生が自分勝手に、ただやりたいからやった、やってしまったことだと困惑していて、これを黙認していいものかと、正当化してしまっていいのかと迷っている。


「観客に負担を強いちゃ駄目だ。ましてやこんな雰囲気なんて最悪だよ。奏さん、これってゲリラライブでしょ?」

「はい」

「別にそれ自体が悪いと言いたいんじゃないよ。僕が言いたいのは、やるならもっとちゃんとしろってこと、それだけ。じゃ」

「帰るんですか? まだ最後の曲が残ってますよ」

「いいよ、もう。」


ならやろう。


その瞬間、水色のリボンが左右に揺れた。『違うよ、それ』と。

そうだった。

俺達はそうじゃなかった。


一拍、深呼吸。

ふぅー。という長い音がふたつ。揺れていた空気に安定を生むようにして鳴る。


「いこうか、天くん」

「はい」


俺の額には汗が吹き出している。

だから先輩はもっとだろう。

それが気持ちいい。そうだから気持ちいい。

一緒に気持ちよくなっていることが分かる。

たまっていたモノを出し切ろう。

きっと、もっと、ずっと気持ちよくなれる!

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