青天の霹靂!?

あめ! ちょっと! 起きて!」


朝だというのは分かってる。

だから起こされるのも分かってる。

それが誰かも分かってる。


「おい! 起きろっつってんだろ!」


脇腹に蹴りを入れられる理由も分かってる。


「うっ」

まずい。起きたことがバレる。


「昨日言っといたよね! 今日母さん朝から裁判なんだから洗濯やっといてよ!」

「分ーってる」

「それと、あんた今日学校行くの?」

「分からん」

「ふーん、そう。とにかく! 洗濯! これだけは頼んだよ! いい!!」

「……」

ぼふっ。

「うっ!?」

「いいね」

「はい」


玄関のほうからカコカコと、おそらく母さんがヒールを履き鳴らす音が聴こえる。


俺は右脇腹に僅かな痛みを引きずりながらノロノロと起き上がり、洗面所に向かう。


「またかぁ……」

母さんが昨日着たであろう服が無頓着に洗濯かごに放り込まれている。

いつものことなので俺はそれらを洗濯ネットに入れたり、色落ちしそうなものを避けたりして分別されたものを洗濯機に入れボタンを押す。

ピ。っと電子音がなり、ゴウンゴウンと洗濯機が動き始める。


「今日どうすっかなぁ」

ぐるっぐる回る中身を見ながら今日の予定を考える。

とはいえ、なにかするわけでもないが。


ちらっとキッチンにある時計を見やる。


「せっかく起きたし今日は朝から学校行くとしますかね」

よいしょ。と重い腰を上げると空腹に気づく。

冷蔵庫の中身を確認すると、卵とベーコンがあったのでそれを焼いて、パンで挟んで食べた。

思えば、こうして朝ご飯を食べたのは久しぶりだ。

「うまっ!」

だからすこし幸せな気分になった。

キビキビと身支度を済ませ、いつもとは違った軽々とした足取りで自転車にまたがり、気持ちの良い晴天のもと、なぜかウキウキと漕ぎ始めた。


漕ぎ始めたのはいいが、十五分くらいしてあることに気づいたことでその気分は全て相殺された。


普通に走れば高校まで三十分かからない。(もちろん道は覚えている)

かからないが、そこには大きな問題がある。


あの坂だ。


「あの坂さえなければ」

俺は思わず声に出すと同時にその場に自転車にまたいだまま立ち止まる。


いつもなら別になんてことない。

ただ疲れるだけの坂道だったものが、なぜか今日はあの坂が、学校へ行くということへの拒絶の要因になった。


「……」

仕様がなく、俺はゆっくりと漕ぎ出し始める。

蛇行し、もたもたというスピードで。

おかげで、坂までは十分かかるのが、倍の二十分かかって辿り着いた。


「……」

先程同様、また自転車にまたがったままこの坂を前にして立ち止まる。


俺はどうしよっかなと空を見上げた。


変わらず雲一つ無い晴天。

水色という色を嫌というほどに見せられるだけだった。


登校時間にはもう間に合わない。

でもなんでだろう。

今日はどうしても学校に行くという気概が強くなった。

「行ったろうじゃないか……」

俺は、ハンドルを強く握り直し、右足をペダルに乗せると、つま先に向かって、ぐっと力を集中させた。


カッ!!!


そうした途端、目の前が真っ白になった。


「な!?」

そう1文字だけ発音したと思うと今度は、


バリリリリリーーーーーッ!!


と、耳をつんざく轟音が聞こえた。


「はあ!? なんで? おかしいだろ!」

両耳を押さえ、叫びながら俺は現状を理解していった。


最初のが『稲妻』。

その後のが『雷鳴』だったことを。

確かな重みのある音圧。

その圧でぐううっと、体全体が抑え込まれた。


「さっきまでピーカンだったろ!」

俺はやっとのことで顔を空へと向ける。


そのままだった。


空は依然青天で、水色だけがそこにある。


「君ーーー! 遅れるよーーー!!」


遥か頂。

さらにそこから少し上。

俺を呼ぶ声だけが今は聴こえるだけだった。

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