正体!!

キーンコーンカーンコーン。


今日最後の音が聴こえる。


その音で俺はやっと自分が学校にいたことに気づいた。


『君ーーー! 遅れるよーーー!!』


頭の中では一日中あの音だけがリフレインしていた。


がやがやと周りで音がする。

クラスのやつらが帰り支度をし、騒がしく帰路につく音だ。

けれど、その音は霞がかったくぐもった音となって俺の耳に届く。


「耳鳴りが収まんねぇ」

誰に言うでもなく、自分だけが聴こえる音量で言う。

「遅れるよって……あの段階でもう間に合わなかっただろ」


あの稲妻と雷鳴はなんだったのか……。

それに、実感してしまっていたあの『圧』は――。

今朝の出来事が俺は全く飲み込めていなかった。


気づけば教室には俺一人だけ。

そこで俺はあの声の形を思い出す。

それは、あの声の主の姿を思い出すということだ。


「多分、振り返って言ってたよな。あとは……あっ! あの袋。あれはなんだ?」

あの時俺の視界は閃光によって目が眩んで真っ白に飛んでいた。

でも何故か水色の空は認識できた。

だからあの姿も水色で、それは人で、振り向いたことで揺れたのが髪。

「女……だったのか? いや、あの声は女の声だ! だとすればあの時間、あの場所にいたということは同じ高校!!」

なぜか上がっていく口角にきづかないまま俺は、あの出来事を少しづつ噛みくだけていけた。

だからといって、それがなんだというのか。だからどうしたのか。そんな結論にしか行き着けない。


「――帰るか」

いつも通りヌルっと席を立ち、何も入っていない高校指定のカバンを手に取る。

「ん? ちょっとまて……あの袋。あれがなんなのかまだ把握出来てないじゃないか」


どうしてそこに引っかかったのか。

間違いなく普段の俺なら、気づいたとしても追求まではしない。


「小さかったな。弁当を入れる袋? にしては。ならなんだ? 細くて長い……リコーダー? そうだ、あれはリコーダーを入れる袋だ!」


行き先が決まった。

俺は急いで音楽室に向かう。


「って、どこにあるんだ? 音楽室って」


とりあえず見当をつけてヤミクモに探す。

教室が3階。

だいたい音楽室は上の階にある。

でもうちの高校は校舎が3棟ある。


小気味良かった足取り。そのリズムが崩れていく。

タタタ! だったのが、次第にトトトになり、最終的にはいつもの足取り、モタモタになった。


「見つけてどうなる? どうする?」


もう足は動いていなかった。


「やっぱり、帰……」


ジャシャーーーーーン!!


それは何かが破裂するような音で、

でも今朝の音とは違っていて、

けれど同じ音。雷鳴だった。


「はっ、はっ、はっ」

俺の耳に自分の荒い息遣いだけが聴こえる。

これは全力の時に聴ける音で、

久々に聴いた音だ!


バリーーーーーン。

ドドドド、ドドドド。

ダンダンダンダン。

ジャシャーーーーーン。

タスタスタスタス。


音に近づくにつれて、その音がひとつではないことに気づく。


「はあ、はあ、はあ」

一心にその音めがけて走り、たどり着いた時、俺は音楽室の前に立てていた。


扉は閉まっている。

なのに依然その音は鮮明に聞こえ、『圧』で俺の体はまた抑え込まれる。


構うことなく、今朝そうしたようにその圧に抗い、扉の取っ手に手を掛け、一気に引く。


ガラッ!


「うーん、やっぱり自分のじゃないとダメね」


リフレインしていたあの声が書き換えられる。

女は座ったまま、名前だけなら誰しもが知っているに向かってそういっていた。


「あれって――ドラム」

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