じこしょーかいっこ!
聴こえてきた自分の声はもうくぐもっても、霞がかってもなくて。
あの音の正体。
稲妻と雷鳴の正体。
そして、あの声。
すべてが凝縮していた。
俺の声、俺自身を彼女は気づいていない。
音楽室の扉は全開まで開けていたけど、実際、俺と彼女の距離はまだ遠かった。
端と端。
長方形の教室に対角で俺達は
気づけていなかった理由にはもう一つある。
それが、素人の俺からすれば何やら大げさに置かれたあれだ。
大小様々な太鼓。その中に一つだけこれこそと言わんばかりに一番大きなものがドンとこちらを向いている。
それだけでも十分仰々しいのに、さらにそこに窓からの西日をうけてキラキラという音が聴こえてきそうなほどに金色に輝く円盤がぶら下がっている。
その奥。
不規則な物々が邪魔になっていて、見えたのは彼女の頭の先だけだった。
大きな水色のリボン。
「ああ、だからか」
俺は無意識に声にしていた。
「誰かいるの?」
彼女はスッと立ち上がり、まっすぐ俺の声に向かって視線を送ってきた。
想像していたよりもずっと小さい。
165センチしかない俺も俺だが、あの水色のリボンを入れたとしても精々160センチ……いや、そこまでいかないだろう。
なのに迫力と言えばいいのだろうか。
大きくて、ちゃんとしている。
いや、し過ぎている……?
「ええっと、その……」
「あら? 君は今朝のモタモタっ子!」
「モタ!? って、すいません勝手に入ってきてしまって」
「いいわよいいわよ! 大歓迎よ! 入部希望者でしょ?」
「は?」
ハキハキした口調でいいながら、自分の声にシンクロするようにパタパタと駆け寄ってくると、その勢いのままパシッと俺の両手が彼女の両手によって合わされた。
「はじめまして。私は二年の
こんなに近くで女子の顔を見たのは初めてだ。
その顔は今までで見てきたものの中で一番きれいで。
勢いに遅れた微風が経験のない匂いを俺に届けてきた。
「ええっと……俺は、一年の
「一年! 新入生! そして男子!」
握った俺の両手がさらに強く握られる。
「結成一年……長かったわ。でもそれも今日まで! ね?」
いや、「ね?」と言われても……。
ガララ。
「あっ! たわらっち、入部希望者よ! それも一年男子!」
振り返ったことで俺の鼻先を水色のリボンがかすめた。
「天地。他の生徒がいるところでそう呼ぶなと何回言えば分かるんだ……」
コツコツと音を立てながら歩いてくるその男に俺は、自分の目の前に来るまで気づけなかった。
「そんなどうでもいいこと言ってないで、ほら! 新入部員よ!」
「あのなぁ」
完全に見おろされた形で初めて俺はその人物を認識する。
でか!
何センチあるんだこいつ?
「お前、なにかやってたのか?」
低く籠もった声。
けれどその声は俺に腹の真ん中でズシッと重く響く。
「え?」
俺は一瞬で周りを見渡す。
「楽器、ですか?」
「そうだ。なにかやってたのか?」
推測で190センチ近いだろうその高さから降ろさられ目線に、目を合わせまいと顔を背け、緊張することしか俺には出来ない。
外した目線の先。
そこには、目を爛々とさせた彼女が、一心に、なにかを期待しながら俺を見つめている。
その目線にも耐えきれずあさっての方へと目線を飛ばす。
そこには開きっぱなしの扉。
俺が入ってきたのではなく、この大男が出てきた扉。
どうしてかそこで視線が止まった。
その奥。
僅かに。
微かに、それが見えた。
「あれ」
「ん?」
「え?」
俺が言った先にあったもの。
そこで三人の視線が初めて重なった。
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