万事解決!?
おそらく正方形。
パッと見、奥行きと幅が同じ。
そこに、少し圧迫感の感じるほどの天井の高さ。
初めての場所。黙ってしまえば自分の脈動の音まで聴こえてきそうな空間。
目の当たりにして最初に受けた印象だった。
「ウチでしろ」
「……何を、ですか?」
ボーっとした意識のまま脊髄反射的に聞いてしまう。
「アルバイトだ」
「え!? ここで? ですか?」
今度はしっかりと能動的に聞く。
「先に言っておく。ウチにはもともとそんな余裕はない。無いが、極稀になんの前ぶれもなく忙しくなる時が年に数回起こる」
いやいや、それって、店の経営としてどうなんだ? と俺は思い、感じる。
「お前今、どうしてこの店が成立しているのかと思っただろ?」
「いえ……はい」
「はぁー。いいか? ウチにはちゃんと常連もいるし、太い客もついてる。お前が思うほどヤバい経営なんてしてないんだよ」
どうしても強がりにしか聴こえてこない。
「なら、さっきみたいなことは言わなくていいんじゃないんですか?」
「ほんとお前はガキだな」
「はっ?」
「そんなところも矯正してやる。だから、四の五の言わずウチで働け」
「……納得できてませんけど、わかりました」
「くくっ、まったく、ガキが」
そこで俺は初めてこのひとの笑顔を見た気がした。
「ということは、ここを見せたのは、この場所が俺が受け持つ場所ってことですか?」
「んなわけるか。お前が――天がやる仕事は全部、この店の業務なんでもだ」
「……具体的には?」
「接客、レジ、品出し、このスタジオのスケジュール管理、その他諸々だ」
「一応聞いておきたいんですが、いいですか?」
「なんだ?」
「時給は?」
「いくらがいい?」
聞いてみたものの、今日までアルバイトというものに全く興味がなく、考えもしてこなかったことに気がつき、そんなところに金額指定されたところで、もちろんその答えは出てくるはずもない。
「千円で」
「いいのか? それで」
「……千、二百円……?」
「聞くな」
「千五百円で!」
「ふーん。じゃあ聞くが、お前は、初めてするアルバイト、それも、初めての業種をするにあたって、自分が、千五百円分の仕事ができるということだな?」
多分、いいや、ずっと。
この人は俺にとって恐怖の対象になるんだろう。
単純な恐怖じゃない。
深く厚い。
遥か地下深くから立ち上がる分厚い壁として。
「とりあえず、アンプと弦の代金分働け」
「わかりました」
俺は素直に頷く。
「ちなみにだ。ウチで働いている間はここを好きに使っていい。勿論営業時間外でだがな」
「この店、営業時間ってあったんですね」
「うるせぇ」
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