再び……

「あれ?」

久しぶりに付けた腕時計を確認すると、案の定まだ昼まで一時間以上あった。

「開いて、る?」

多分、こんな店構えなんだから、それが開店しているという確証を得るには困難極まるだろう。

「どうしよう」

俺は後悔していた。

先輩よりも先に着いて、あの困ったような、怒っているような顔を見たいというだけで、今こうしてそれが実現したことで。

「忘れてた」

そうだ。

俺はここから逃げたんだ。

いまさらどんな顔をして入っていけばいい?

それに、先輩のことだ。『BURSTに来て』というのが、でこうして待っていたんでは先に来ていたと認めてくれないし、認めないだろう。


うーん。と唸るしかできない。

その時だった。

店の戸が突然開いた。


「……どうも」

俺はもしかしたら初めてだったかもしれない、そんな挨拶をしてしまった。

「おう。天地は……まだか」

一瞬だけ目が合ったが、店長はすぐに視線を俺の後ろに向けた。

「あの、これアンプと弦の代金です。すいません。遅れてしまって」

一気に、早口で言うと、

「ああ。まあ、中に入れや」

そういって、店長は体を半身にし、俺を店内へと招き入れてくれた。


「あの、これ……」

「ん? おう、毎度あり」

慣れた手つきで颯爽と俺から代金を受け取り、それがこの店のユニフォームなんだろうエプロンの前ポケットに潰すように突っ込んだ。


「にしても、昨日の今日でよくこれだけの金を用意できたな? 今どきの高校生は金持ちなんだなぁ。もっと吹っ掛ければよかったよ」

くくっ、とそういって店長が笑った。


「親が出してくれて」

「あー、なんだ、そういうことか」

「前借りですけど」

「ぷっ! 返す当てはあるのか?」

「まあ、暇な学生ですから、バイトでもしますよ」

「暇ねぇ」

「?」

「お前、ギター弾く時どんなだ?」

「突然ですね……。前も言いましたけど、気持ちいいからです」

「なら、弾きたい! っていう衝動は?」

「!」

どうして大人はみんな、俺の思っていることがわかるんだろう?

「――あるに決まってます」

今俺は睨みつけているんだろうな……。

本音を見透かされ、自分から言うことができなかったから。

ギターが弾きたいから! と。


「ならもうひとつ上を味わわせてやる。ついてこい」

そういうと店長が店の奥へと足早に向かっていく。

急いで俺はその後をついていく。


管楽器、ピアノ、ベースにドラム、そして一番奥のギター。

よくもここまで綺麗に分類されて置かれているなと、なんでか、どうしてか、そんなふうに見えた。

二回目のここ、ギターゾーンには、やっぱり、この間店長の言っていたとおりギブソンと刻印されたギターしか置いてなかった。


「おい、こっちだ」

恍惚とした顔でボーっと見回していた俺に店長が呼びかけてくる。


「こんなところに階段なんてあったんですね」

それは降りていくことのみに設けられているようだった。


黙ったまま降りていく店長。

俺にはその先になにがあるのか全く予想ができない。

すると、そんなことを考える暇もなく階段を降りきってしまった。


鉄製のドア。そこに、室内が僅かに見える程度の細長いガラスがはめられていた。


「開けろ」

なんでそんなことを言われなければいけないのか分からなく、腑に落ちなかったがそうする。

「重っ!?」

「防音だからな」

「ボウオン?」

「さ、入れ。ここがスタジオだ」

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