プレッシャー!!
「いきます」
一言言い残す。
タン。
振り下ろされた細い腕。
その一打、その一音だけを鳴らした瞬間だった。
グググググウッ!!
昨日、いや違う。
昨日感じたその何十倍のものが俺の体を押さえつけてきた!
「うっ!」っと、昨日は出なかった声が漏れる。
ダダシャン、ダダシャン!
同時にそこに。
ドンタス、ドンタス! の打撃音が乗るとリズムが生まれ、『圧』はさらにその何倍にもなって体にのしかかってくる。
「……っ!」
テンポが上がる。
それがさっきまでの音ではないということだけが分かる。
もう音ではない。
ちがう。最初からそうだ。
『耐えて』
先輩が言った意味がなんとなくわかってきた。
確かな感覚。負荷。
立てていれなくなる。
その場に立て膝をつく。
「くそっ」っと、なぜかその言葉が次いで出た。
「しししっ! やっぱり自分のだと最高ね!!」
圧の量が増える。
俺は立ち上がることを諦めるしかなかった。
このままでは音楽室の床にベッタリと全身を這いつくばるしかなくなる。
それを阻止するために。
ギリギリ。
という歯ぎしりを立てた音がかろうじて聴こえる。
無駄な抵抗だということは分かっている。
でも、耐えてと言われた以上耐えてみせる。そんな、らしくない考えで頭がいっぱいになった。
バリーンジャシャーン!
タスタムドスダダダダダダ!
ドッドッドダン!
多分しばらくは筋肉痛で動けないだろう。
耳も使い物になるとは思えない。
まだ終わらないのかよ。
どうにもできない状況。それを打破する方法も思いつかない。
ただ怒りの感情をどことでもない場所にぶつける他なかった。
「もう少しよ! 頑張って!」
さらにスピードが上がる。
もはやリズムだのテンポだのと言っていられない。
明らかな攻撃。暴力のそのものだ。
ここまで人間に負荷を与える『楽器』が存在してもいいのか?
意識を失いかけてきたのだろうか、目の前が薄暗くなってきた……。
ゴロゴロ……。
いよいよ雷鳴の幻聴まで聴こえ始める。
「これでフィニッシュよ!!」
先輩の生み出す音。
それは、一打の間で累乗され、増えれば増えるほどひとつになる。
そして、本来ならば全く違うであろう音色すべてが同じく叩かれ、等しく鳴いている。
天井知らず、限界知らず。
『音』という概念をあっさりと越えて行く。
もう、無理だ。
限界が近づく。
ジャシャーン!! ドドンッ!!
「ふう。」
先輩が言っただろうその音を最後に俺の意識は切れていった。
「……ん?」
「あ、気がついた?」
「ふえ?」
「ふふふ、私の勝手な約束、守ってくれてありがとう」
状況がわからない。
この視界、降ってくる声。
先輩の顔が俺の顔の上にある。
「ごめんなさい。苦しかったよね」
「ん!?」
俺は思わず降ってきた雨粒に声を出してしまう。
「初めてだったから……つい気持ちよくなっちゃって」
先輩は、笑っているのに泣いていた。
それが嬉し泣きというものだと、俺は初めての経験をすることになった。
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