嵐の前の静けさ!
「ねえ君。ここに風間天って男の子いるかしら?」
え? と、突然そう聴かれたクラスメイトは戸惑う。
「天くん! いるの? いないの?」
「はい! います!」 と、気迫に気圧される。
「風間君! 先輩が呼んでる!」
慌てた声で呼ばれる。呼んでいるこいつを俺は知らないが。
「おはよう天くん! どう? ご両親の了解は得られた?」
「はい。っていうか先輩」
「なに?」
「これから朝のホームルームなんですが」
「だからなに?」
「は?」
「いくわよ!」
そういうと先輩は昨日と同じようになんの躊躇いもなく手を握り、とても女の力とは思えない強さで強引に教室から引っ張り出し、勢いもそのままでどこかへと俺を連れ出す。
「ちょ、どこ行くんですか?」
「決まってるでしょ、音楽室よ!」
到底単独では不可能なスピードで全力疾走をさせられる。
感じたことのない風。
その中は、今まで俺の聴いたことのない音だらけだった。
元気に揺れる水色。
今日もあのリボンを先輩は着けている。
「さ! 早速やるわよ!!」
「はあ、はあ、はあ、んっ……やる、とは?」
切れ切れな息も絶え絶えに、分かり切ったことを聞く。
「あら? 持ってきてないじゃない、ギター」
あたりまえだ。
どうやったらあの状況でそんな準備万端な体勢を整えられるというんだ。
「教室です、ギター」
「もーう、しっかりしてよねぇ。これじゃセッションもできないじゃない!」
どの口が言ってるんだ。
「しょうがない! 昨日はちゃんと聴かせられなかったからまずは私のドラムを聴いてもらおうかしら!」
全く切れていない息。
まあまあ、そこそこの距離を走ったとは思えない軽い足取りでパタパタと昨日と同じ音で歩いていく。
「じゃーん! どうかしら? ふふ、あまりの嬉しさに今朝うちから持ってきちゃいましたぁ!!」
称えるように両手をいっぱいに広げて、どうだ! と、まるで自分の宝物を得意げにみせてくる子供のように俺に見せつけてくる。
「ん?」
やっと整ってきた息のおかげで、そんな大げさな態度に対して一音だけリアクションができた。
「あら? 気がついた?」
先輩は、俺がすでに上がりきっていると思っていた口角を、顔中の筋肉をすべて弛緩させることで更に上げていく。
昨日のもそうだったが、今、目の前にあるこの仰々しさは素人の俺から見ても全然ちがう。
足りない。
ドラムの親分のように唯一こちらを向いていた大太鼓。
それはある。
けれど、そこに付随していた、俺自身いわく、子分たちの数が明らかに少ない。
昨日は3つだった太鼓の子分が2つ。
きらきら輝いていた円盤状のものが4つから2つに。
なのに。
それは、昨日よりも仰々しく、堂々としていた。
「金色」
「そう! 凄いでしょ! しししっ、私の趣味なの、いいでしょ!」
円盤はその色がはじめから金色だった。
それに合わせるように、太鼓の縁が金色に彩られている。
バタバタ。バラバラ。
そんな音のしていた昨日のドラムセットとは違い、
ドウドウ。ケンラン。
とすでに鳴っているようだった。
「さてと、それじゃ」
そこに先輩が座ったことで、さらに凄みが増す。
タン。
バス。
ドン。
チッチ。
はじめはそれらの音が交互に鳴る。
タン、バス。
ドン、チッチ。
次第に4つが2つの音と成っていく。
ダンバスドンチッチ。
ダンバスドンチッチ。
いつそうなったのか分からないうちに一つ音となって同時に、たまにそれぞれが単独に合わさっていく。
タム。
その音だけを出したかと思うと突然先輩が叩くのをやめた。
「やっぱり。天くんがはじめて。それに、天くんが私の初めてで良かった」
その言葉に俺はなぜか緊張する。
「頑張って耐えてね」
先輩は姿勢を正すように、同じ金色に塗られた椅子に座り直す。
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