速すぎる才能。

「おかしいでしょ……」

その声に俺も先輩も反応する。


「私にはわかんない。どうして?」

今にも泣き出しそうな顔。

「ねえ、鳴。こいつだけならまだいい。どうしてあんたまで、なの?」

「ししっ。それはね、たまちゃん」

あの声。

それで答える。


「天才だからだよ」

「はあ!? なにそれ! あんたが言うの!」

「うん、そうよ。これは事実だからしょうがない」

「事実って……」

「ごめんね。」

そういった先輩は環さんの表情よりも何倍も酷い顔になっている。


「普通、じゃないんですか? これって」

俺の声を聴いて先輩と環さんが一緒になってこっちを向く。

「いや、だって、俺はそうだから。いいじゃないですか、普通で。俺、二人のそんな顔見ていたくないです。俺の音が原因なら尚更です」

多分今の俺は放心した無表情だ。

感情の唯一が『気持ちいい』。

だからこんな顔になる。


「なら聞かせて」

環さんの声はまだ震えている。表情もそのままで。

「あんたたち天才のいうってなに? 答えられるでしょ?」

「なに言ってるんですか、環さん。あなたもそうなんですよ」


「は?」

「しししっ」

二人がそれぞれに反応する。


「というか、俺からしたら十分天才です。先輩はもちろんのこと、環さんだって」

「どこが!? 言っとくけど私、自分が天才だなんて一瞬も思ったことないから!」

「ああ、ならそれは嘘です」

「……」

環さんは、自分がもうどんな表情をしたらいいのか分からない、左右非対称の、歪めた顔をしている。

「だって、これ見たら分かりますよ。嘘だってことが」

俺は、借り物のストラップで肩に掛けたギターを、一番いい角度がどこなのか迷いながら環さんに見せる。

「気持ちいいんです。このギターを弾くと」

「だから!?」

「そういうことです。」

「しししっ! そういうことよ! たまちゃん!」


「変な三人ね。でも、素敵よ。あなたたち」

楓さんの言葉には、俺と先輩、それに環さんも同じことを思っているようだった。


自分が十分子供だと。

絶対的な才能を目の前にしたところでそれは彼女にとって余裕なことだと。

なんだか先輩と似てる。


俺からすれば、一緒だとはいえ、ひとつの存在は由々しき存在だ。

天才の先輩。


環さんはそれとはまた違う。

ひとつしか歳が違わないのに、ここまでのことが出来てしまう存在。

未知の天才。


なら俺は?

一瞬声になりそうになる。

『俺はどんな天才なんだろう』と。

でもならなかった。

当たり前だ。

俺にはまだその資格がない。

ただ「気持ちいい」としか思えない俺は


やっと分かった。


「おばあちゃんは分かるの?」

楓さんに対して、環さんにしか聞けないことを聞く。

「そうねぇ。じゃないかしら」

「速さ?」

環さんが同じことを聞くよりも先に、俺が聞いてしまう。

「ええ。速さ」

ゆっくりと、間隔をしっかりと空けて喋る。

「成長、ってことですか?」

「ふふっ。やっぱり分かるのね、あなたには」

その瞬間、楓さんに言われて気づく。先輩と環さんが、俺と楓さんの会話スピードについていけていないことに。


「天さん。よく聴いて。これはあなたにしか理解できないことだと思うから……」


楓さんは、ずっと俺に向けていた視線を他へと移す。

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