独奏!!

もちろん2弦から!


人差し指、中指、薬指、小指と順番に運指する。

は、四つの単音を順に鳴らした。


そこから上に。

3弦を人指し指から同じようにする。

流れは同じ。でも、音程が変化したそれは『新しい音』だ!


さらに4弦、5弦、6弦と縦の動き、横の動きを同時に行う。


でもまだこれじゃ駄目だ。


もっと高密に。

一切の隙間もなく。

純度の高い音塊へと。


1音1音を単独で出していてはが無い。


なら……。

今使える俺の指は4本。

一回のピッキングで四つの音を出せばいい。

俺は2弦を一度ピッキングすると同時に、今度はすでに押さえた人差し指、そこから順に一気に運指させる。

さらにそこに縦の動きを加え、音の流れを途絶えさせないにようにする。


よしっ!

1回でが出せる。


あれ?

でも待て。

なら逆のやり方で戻っていけば……。

上がっていった音階を下げる。それは倍の音が出せるということだ。


やってみよう……。


やっぱりだ! こうすれば、さらに速く、自分の想像に近づく。


今度は単音と連音をミックスして。


あー、なんだ。

そうか――だからだったのか。


『気持ちいい』のは。


音ってすごい。


先輩があんなに自由に、無邪気になれて。

顧問や、店長。あんないい歳した大人になっても、そんな先輩と同じ土俵にいて。

環さんが、怒ったり、騒いだり、驚いたり。

あんなに恥ずかしいことを平気で初対面の俺達に見せてくる。


それはその先に『音』があるからだ。

それを追い求めていくことが『音楽』。

だから、この人たちはこんなにもなんだ!


母さんにこのレスポールを渡された。

記憶に残っていないほど前にに俺は触って弾いていた。

「気落ちいい」

言葉を喋れなかったあの時俺はこう言えていただろうか。


ギターを弾く。


世間一般は、そこには努力が必要だと、伴うものだと、代物だと。


俺には必要ない。

これって、すごくじゃないのか?

だとしたらあんな嫌な感じは嘘だ。

気持ち悪い。

気持ち悪いことなんてしたくない。


この色を見ろ。

環さんが丁寧に磨いてくれた。こんな天気でもこんなにも綺麗で、そして輝いている。

まっすぐ。突き抜けるように。


そこには、銀色の鉄で出来た線。

弦が六本張らている。


それが努力を生む……?

はっ! そんな頭のおかしくなったようなやつらの考えなんてクソったれだ!




風が止む。

全身に吹き出た汗。

それは、風を起こした俺だけ。


「まぶしい」


ゴールドトップが陽光を受けその色を強く発散している。


「聞いてもいいですか?」


――――「いいよ」


よかった。

先輩が答えてくれる。

この質問の答えは先輩に聞きたかった。

俺との先輩に。


「ギターを弾く人間のことって、なんて呼ぶんですか?」

「ギタリスト」

少し間をおいて、

「違うけどね」

そういって、しししっと笑う。


「ちなみにドラムは」

「ドラマー。これも違うわね」

「そういうことなんですね。確かに変だ。それっておかしいですね」

「でしょ? よね」


レーザーのような光線だった日差しは、いつの間にか俺の体全体を差していた。

眩しくなくなっていたのは俺自身もゴールド色になっていたからだった。


「きれいね」

「はい。ほんとにいい色ですね、これ」

俺は俯き、ギターの正面が自分のほうに見えるように傾ける。

「違うわよ」

「え?」

「あなたが――天くんが、よ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る