俺の音!!
ゴロゴロ……。
雷鳴がさっきよりも近づいている。
厚く、幾重にも重なった雲が擦り切れた音を出す。
グラデーションだと思っていたそれが一つ一つ違った色の単独の雲だと気づかされる。
東風はさらに強く、確実にその対象すべてを揺らす。
あたりまえは自分じゃ解りにくい。
だから決心がいる。
正解不正解なんて気にしていたら到底行き着くことはできない。
答えはいらない。
全部初めから俺には備わっていた。
才能。
頭に浮かんだ文字。
良い、悪いなんてない。
ただそこに自分がいる、あるだけ。
「あー、そっか……」
俺が出した不意の声。
先輩と環さんは、目を一段と見開き反応する。
「間違ってました。」
四つの目はその形を大きく変える。
先輩は優しく。
環さんは細く、三日月のように。
「ギターって良いですね。」
そういった途端、二人は一気にそんな表情を弛緩させ、次の瞬間には吹き出し、大声で笑いだした。
「でしょ!」
「あたりまえ!」
違う言葉でも、二人が同じことを俺に言う。
「ですねっ!!」
俺は笑った。
気持ちよかったから。
そんな気分だったから。
「続けてもいいですか? あれ?」
おかしい。ずっと俺をまっすぐ見つめていた二人と目を合わせることができない。
「あの……」
「……」「……」
「弾きます、よ……」
「どうぞ」
交互に二人を見ていた方向からではないところから声がした。
「天さんの音だったのね。それにこの子の」
楓さんが言って、そこに「ふふ」と品のある微笑をつけ足す。
「二人とも天さんが弾きますよ! ちゃんと聴かなきゃ!」
先輩と孫に向かって注意を促したことで、二人が姿勢を正す。そのことが確認できると、楓さんが俺にアイコンタクトする。
だから俺も姿勢を正す。
環さんが綺麗に拭いてくれて、弦を張り、調律してくれた。
子供の頃、遊ぶように弾いた。
また、そのきっかけをくれた先輩の前で。
「あ、そうそう。はい、これ使って」
楓さんから薄いプラスチックで出来た三角形のものを渡される。
「うちのピック。いいでしょ? ふふっ、あなたのギターと同じ色よ」
そこには『柾木楽器店』と、ゴールド色の表面に真紅色でそう書かれていた。
「ありがとうございます。使わせてもらいます」
どうしていいかわからなく……はなかった。
俺はピックを親指と人指し指で挟み込む。
借りたシールドが、俺のギターとあの店で買った(仮)アンプとを繋ぐ。
右手はピックを、左手はネックを握る。
弾こう。
速弾きで。
母さんが思い出させてくれた、俺のスタイルで。
風が止んだ。
雲は動きを止められる。
けれど雷鳴だけがまだ鳴り続けていた。
チラッと、先輩に視線を送る。
その瞬間目が合った。
真剣な顔。でも、僅かに口角が上がり、その様子からは「しししっ」というあの音が聴こえてくるようだ。
「ちょうどいっか」
先輩に聴こえないように言う。
俺は、楓さんから渡されたピックを持った右手を動かす。
だから同時に左指も動かす。
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