目的地。

「ごちそうさまでした!」

「……ごちそうさまでした」

俺達は全く同じタイミングでそういった。


「よし! そろそろ開けてるはずね、行きましょ!」

先輩が言いながら勢いよく立ち上がる。

会計のとき、俺が二人分出そうすると、先輩は「あら、いいの? ふふっ、じゃあごちそうになろうかしら」と、はっきり言った。

俺はその言い方がとても好きだった。

実際問題、今日の俺はリッチマンだ。財布には家を出る寸前に母さんから「はい、これ!」と諭吉を一枚渡れた。「なにかと入り用でしょ!」そう言って、しししっと笑いながら。


「今から行くところって店舗なんですよね?」

「そうよ、なにか?」

「いや、変な感じがして。多分お昼過ぎとか、さっきもそろそろ開けてるって言ってたんで」

「ああ、それね。行けば分かるわ」

そう言うとまた同じ足取りで先導するように俺の前に出た。


しばらく歩くと、景色は繁華街と言って申し分ないところに行き着いた。

こんな大型の建物しかないような場所にも楽器店はあるものなのかと少し感動する。

スクランブル交差点が見え始め、俺はてっきりそっちに行くものだろうと、せっかく先導してもらっている先輩の後ろを外れた。


「そっちじゃないわ、こっち!」

その光景が、つい数秒前の俺の感動を綺麗サッパリ拭い去る。

左手で俺を手招きし、反対の右手は明らかに暗がりのほう、裏道を指し示している。

「すいません」と言いながらも、何かの間違いだろうと疑いながら変わらない足取りの先輩の後に続く。

そんな不安をよそにどんどん、迷いなく先輩は進んでいく。

しばらく進むと、ビルとビルの隙間によってすっかり暗くなってしまった場所に出た。


「ここよ!」

振り返り、体全体をこっちに向けて先輩がなぜか誇らしげに場違いな声を出した。


まわりは全て鉄筋コンクリート。

そのことでヒンヤリしてはいるものの、通気性の悪さからカビ臭さ、ホコリ臭さが漂う。

木造、外壁はトタン張り。

そんな外観をさらに彩るように、申し訳程度に置かれている室外機。その上にはどうして必要なのか、木製の日除けカバーが振動でカタカタと音を立てている。


「ここ、ですか……」

困惑と不審。そんな音も出てしまうような店が俺の目の前にあった。


「ん? あら? ちょっと!? まだ開いてないじゃない!」

先輩が施錠されたままのドアを無理やり引っ張ると、もうちょっと力を加えれば開きそうになるほどのガタガタという音を立てた。


「なにやってんだ」


やめさせようとしていた俺のすぐ後ろで突然声がする。

その音は、明らかに聞くということをしていなかった。


「あ! おがたっち、約束通り来たわよ!!」

「天地……他人がいるところではそう呼ぶなと言ったはずだ。つうか、そんなふうに呼ぶな」

「いいから。早く開けなさいよ!」


どこかで聴いたようなやり取りを二人がし終わると、あの顧問と同じくらいの背の男が、ふー、と溜息をつきながら店の扉に近づく。

横を通り過ぎる瞬間、男はギラリとした目線を一瞬だけ俺に向けた。


「まあ入れや」

「ありがとう!」

躊躇いなく先輩が男に続く。

俺も、一応「ありがとうございます」と聴こえているのかどうか不安になるような音量で言って続いた。


店に入る際、扉の横に立てかけられていた看板らしきものに気づく。

そこには、二メートルくらいの立派なおそらく檜の一枚板に、

『BURST』

と、これもまた立派な毛筆で妙に馴染んだ英字で書かれていた。

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