開演!

生まれた人間はどうやって生きていくんだろう?


「よし! 先輩、こっちは準備オッケーです」


この『道具』というのは、生まれた瞬間から生き方が決まっていて、それをまっとうすることが、大なり小なり約束れている。


「ちょっと待って――うん。オッケー、いけるわ!」


人は道具じゃない。

生き方はそれぞれ違う。

正解もなければ不正解もない。

実体がなくても確実な現実がある。

だから証明しなくてはいけない。


「お願いします」


価値としてはどうなんだろう。

生きていくのに絶対に必要な物じゃないし、使い方を間違えば邪魔になってしまう。

到底それが妥当だとは思えないような値段だし、それなのに誰でも簡単に手に入ってしまう。

プロなんて概念がそこに付随するようなもので、だから当然、金になる。

種類なんて概念もあるし、だから当然、選ぶ。

自由なようでいて、実はそうじゃない。

感動を生み、勇気なんて大げさなことも作り出せる。

人によってはその『価値』は大きく変わり、さらには変化することさえある。


楽器。


俺はこの道具を使うと決めたらしい。

自分が誰かということも知らなかったような頃に。

正直、まだ価値なんてわからない。でも、俺には必要な物なのだろう。


誰にもわからない。

いくら一緒な先輩でもこれだけは譲れない。

分かられてたまるか。

だから先輩、ごめんなさい。

俺には俺の。先輩には先輩の。生きていく理由がある。

偶然それが楽器という道具で重なって、音を通じて繋がった。

だから先輩。ありがとう。


一緒になりましょう。

気持ちよく。


「やってるな」

「よかった! 間に合った」

「こんなとこでやるのか……」

「あの子が噂の先輩ね」

「来たよ、鳴」


「一曲目、聴いてください。月光」


さあ証明だ。

この『楽器どうぐ』を使って。


文化祭。

十分に満たされた空間に俺のアルペジオが確かに響く。

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