これが俺……風間天だ!!
「あーーーーーっ!」
俺の出した大声に、先輩も奏さんも目を丸くしている。
そんな目をされても困る。
だって、大声を出した当の本人が一番ビックリしているんだから。
『きもちいい』
『だろ! さいこうだろ? ギターって!』
『あん! さいこう!』
『あははっ! いいぞ!!』
なんだコレ?
『聴いたか!? もうメロディー弾いてるぞ!』
『はいはい。分かったから、はやくこっち手伝え!』
あれって、母さん……?
なら、あれは。
『いいのか? それ、修理してもらったばっかりだろう?』
『いいんだよ!』
『重いし、もし落とでもしたら……それにあんた、そのギター絶対に誰にも触らせなかったじゃん、私にだって』
『うーん? なんだぁ? 嫉妬か?』
『んなわけあるか。どこの世界に自分の息子に嫉妬する親がいるかっつうの!』
それに、あのちっちゃな子は。
あの小さな体に抱えているのは。
『いいんだよ。きっと天には必要なんだ、これが』
シャジーーーーーッン!!
ジジジジッシャラ! ジジッジシャラ! シャシャシャンジーーン
鳴る。
弾けば弾くほど。
どこまでも、ずっと遠くまで。
息をするように。
笑うように。
怒るように。
眠るように。
走るように。
泣くように。
さいこうだ。
ギターって。
「あははっ!!」
いま俺はちゃんと笑えてるんだろうか。
ちゃんと怒っていられてるだろうか。
ちゃんと泣いて、ちゃんと悔しがっているだろうか。
ありとあらゆるものすべてを素直に感じられているだろうか。
暑い寒い。温かい冷たい。些細な違いもちゃんと経験できているだろうか。
あの時みたいに。
涙が流れる。
口のかたちは笑ってる。
心臓は激しく鼓動する。走ったあとのように。
終わるのがイヤだ。
やれてないことだってまだたくさんある。
でも。
「きもちいいーーー!!」
俺の右手が。
俺の左手が。
全部の指が。
このゴールド色との境目をなくして、溶けて、混ざって、ひとつになる。
音になる。
これが俺の音だと知ってる。
だから、これが俺だ!
全部だ。
どんな音でも出せる。
どこまでも、遥か彼方まで届かせられる。
大丈夫だ。
俺は。
この手触り。この重さ。コレがあれば。
一緒になれる。
生きていける。
コレが『風間天』だ!!
気づけば、最後の音を鳴らした右手を思いっきり、伸ばせられるだけ伸ばし、突き上げていた。
勢いもそのままに、ぐっ!! として握る。
灰色の中にキラキラした黄昏色が滲んだ空。
そこにヒラヒラとした水色がくり抜いたようにある。
俺はこの瞬間、世界の全てを手にしたような気がした。
М・ブラスト!! 西之園上実 @tibiya_0724
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