楽器屋!

店内に入ってみて驚いた。

まず、一体どんな構造なのかと考えさせられてしまうほど奥行きがある。まさにうなぎの寝床だ。

次に、外の雰囲気が一層される内観。床、壁、天井、全てがピカピカの木でできていた。

そこに、やわらかいオレンジ色の照明。当然店内は木のいい香りで充満している。

手前から管楽器、次にピアノ、その次にドラムとベース、そして、一番奥にギターのコーナーがあった。

途中、先輩がドラムコーナーで足を止め、「先に行っていて、要件は伝えてあるから」という一言を残し、そこからは俺の言葉に一切反応しなくなってしまった。

「構うな、ああなったらもうどうにもならない」

男は、多分俺にそういうと、ズンズン奥に進んでいってしまった。


「で? なにが欲しい」

途中の各フロアにあったそれぞれの楽器の品揃えも大したものだったが、ギターフロアといえばいいのだろうか、俺の眼前には視野に入り切らないほどのギターが並べ、飾れられていた。


「ええっと、ギブソンていうメーカーのものってありますか?」

「……」

「あの……すいません。ギブソ……」

「ナメてるのかお前?」

「は?」

「うちは、ギブソンのギターしか置いてない」

「そう、なんですね。すいません」

「……」

どうやら俺の言ったことが男の機嫌を損ねたらしい。

呆れてたような投げやりな言い方、俺のことを見ることなく、ただ沈黙が続く。


「――天地から聞いてたのと違うな」

「先輩から?」

「ああ。お前、あいつのドラムに耐えたらしいな」

そこで怪訝そうにしていた表情が一変する。

まっすぐ俺の目を見て、なにかを確信しているような、それでいて試してもいるような口調に変化する。

と一緒になって弾いたんだってな」

「はい」

「どうだった?」

「気持ちよかった、です」

昨日、母さんから聞かれた時と同じように答える。

「なるほどね……」

そういったところで男は目線を俺からまわりに置かれているギターへと移す。


「で?」

「え?」

「どんなタイプが好きなんだ?」

発せられた口調では、何に対してなのかと迷う。

「ええっと、なんていうか……元気で、ハキハキしているけど、落ち着いた佇まいも持ち合わせていると言いますか……」

「ずいぶん複雑な表現を使うんだな。もっと簡単にならないのか?」

そんなことを急に言われても困る。

「例えば、色とか」

「は? 色?」

「そうだよ! あとは形とか、重さとか、色々あるだろう!」

「かたち、おもさ……ああっ!」

そこで俺は初めてギターのことを言っていたのかと気づく。

「なんだ? 急に大声だして」

「すいません!」俺は慌てて頭を下げ、また声を張り上げてしまう。

「どうかしたのー?」

すると俺の声に反応して先輩が隣のフロアから同じくらいの声量で聞いてきた。

「い……」

「ちょっと天地、こっち来い!」

いえ。と俺が別に気にすることではないと返事しようとした瞬間男が先輩を呼んでしまう。


「なに?」

「こいつは本当にお前が昨日言ったようなことをしたのか?」

「ええ! もちろん!!」

先輩のを聴いて男がギロリとした鋭い目線を俺に向けた。


「なら再現してもらおうじゃないか。今、ここで」

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