エレキギター!!
「あの、すいません。持ち合わせが無いので弦は一本だけでいいです」
「は?」
明らかに驚いた顔。
店長が俺の言葉を聴いて完全にフリーズしてしまう。
「ぶっ!!」
その横で先輩が盛大に吹き出す。
「そっか、そうだよね! 天くんあのとき一本しか使ってなかったね」
「はい」
「はい、ってお前。なら天地のドラムにたった一本だけでやり合ったのか!?」
「はい。そうです」
またも同じリアクションを店長がする。
なにをそんなに驚くことがあるのだろう。
「もう一度弾け」
「え?」
「今から一から説明する。だからお前がどうやって弾いたのか見せろ」
言いながら店長は、顎で店の奥を指した。
「まずさっきも言ったが、エレキギターというのはアンプがあって初めてその意味を成す。つまり、こいつの音はこの箱から出て初めて音に成るということだ、分かるか?」
俺は首肯する。
「お前が」「おがたっち!」
「うほんっ! 天がどうして驚いて弾くのをやめたのか分かった。お前が天地と一緒になって弾いたギターはアコースティックギターだろ?」
なにを言われているのか分からなくなって俺は先輩に目線を送る。
けれど、先輩はニヤニヤと笑っているだけで、何も言わない。
「それはそれでだが……。いいか、アコースティックギターとエレキギターの一番の違いは、その名前でも分かるように『電気』を使うってとこだ」
「それってどうなんですか? 楽器として邪道っていうか……」
「言いたいことは分かる。でもな天」
店長がずっとギターを見ながら喋っていた目線を突然俺に向けた。
「そうやって枠を作ってしまうのは、自由を追求する弊害になる」
『自由』
その言葉に俺は大きく反応してしまう。
「この『エレキギター』ってやつは自由を追求したからできた楽器だ。大げさに言えば……いや、大げさじゃないな。どんな種類の音でも、そしてどんなに大きな音でも再現できる」
「でも電気が……」
「あたりまえだ。人が自由を得たいのならそこには必ず犠牲が必要になる。その点でいえば、楽器は道具。もろにその影響を受けるからな」
犠牲。
少しだけ店長の顔色に影が射し、
「楽器は道具。いいか、そのことだけはしっかり頭に置いておけ」
一拍おいて、
「いずれ分かる」と言った。
俺達三人は店のドラムコーナーまで戻る。
「せっかくだから今度は天くんが一人で弾いて!」
先輩が、俺がさっきと同じ位置に立った途端そう言ってきた。
自分の体から引き剥がしたエレキギターは、まだアンプに線でつながれたままで、専用のスタンドに立てかけられた状態で置かれていた。
『道具』。
そう声に出さず復唱する
「そうだな。それのほうが良い。こいつのドラムは今は邪魔になる」
その店長の言葉を聴いて、一瞬先輩がギッと睨みつけたがすぐにそれをやめた。
「わかりました」
今度は迷いなくギターを肩にかける。
ゆっくり、そして慎重に、不意に弦に指が触れないように気をつけながら、それでも確実に近づけていく。
ふー。と一息だけ吐く。
店内は異常な静けさの空間になる。
あの時のあの指の形を作る。
もう弦とは1ミリも離れていない。
そして触れる。
ジーーーーーーン!!!
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