一対一
「彼、何使ってるの?」
「最近はSG。でも、それは借り物で、本当の天くんのギターはレスポール、ゴールド・トップの」
「え!?」
奏は、鳴のその答えに驚きを隠せない。
「それって、鳴が選んだの?」
「ううん。天くんの家に昔からあったギターよ」
「……じゃあ、あのカタログは見せてないの? 彼に」
「見せたわ。というか、あげた」
「……」
さらに奏は驚いたが、今度はそれを表には出さない。
「そこまで……なのね」
「そこまでよ」
素早く、力強く、鳴が答える。
「今日のライブは観たの?」
「見たわ、一応ね」
「その口ぶりからするとこの間の時から考えは変わってないのね」
「当たり前でしょ」
「やっぱりそれは彼のギターを知ってるから?」
「なんだ、分かってるじゃない」
奏は、ため息を大きくしてから、ゆっくり周りを見渡す。
「またやるんだ?」
「……何度でもやるわ」
なんとなく一周させた視界を止め、もう一度深く、今度は俯いてから小さく息を吐く。
「曲は? どれにしたの? 今回も三曲?」
「月光、Over The Rainbow、それと、黄金の嵐よ」
「黄金の嵐って……あの曲をやるの?」
「ええ、そうよ」
「てことは、あの彼はよほどの実績があるってことなのね」
奏のその言葉を聴いて、「しししっ」と鳴の声が漏れる。
「まだ二ヶ月しか経ってないわ。天くんがギターを弾き始めてから」
「――そういうことだったのね」
「そういうこと! よ」
鳴が親指を立て、グッドサインをすると、ふふっ、と奏が笑った。
「羨ましいを通り過ぎて、笑えてくるわっ!」
奏は空を仰ぎ見ながら、声を投げる。
「でしょ!」
「彼は、」
「風間天よ」
「風間くんは一緒なのね」
奏が、流れている涙を感じながら笑っていてる。
「いつ部活に戻って来るの?」
「ほんと、あんたの性格って最悪ね……」
「……私はそうだけど、天くんはまた違う目的があるみたいよ。だから明日はあのニセモンと一緒に来てよね」
「そんなとこまで一緒だなんてね……運命ってやつ?」
「そうよ。それ以外考えつかない」
「ほんと最悪」
「しししっ! だからきっと好きになるわ、奏も天くんのことが」
「うるっさい!」
奏は、その言葉で勢いをつけ、鳴に対して背を向けると、スタスタと速歩きでいってしまった。
「待ってるからねーーー!」
だから、鳴は今日一番言いたかった言葉を鳴らした。
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