『Over the rainbow』
明らかに変わった。
あの場所から放たれていたものが。
大勢で、豪勢な音の群れが、月光を浴びた。
俺と先輩の出す音に気づいた。
次だ。
今度はそれ以外全部。
空気に触れて生きているすべてに音を届ける。
「二曲目 Over the Rainbow」
これは難しい。
さっきみたいに、特定の人間に音を届けるのなら手段というものの目処がたつ。
けれどこの場合は、あまりにも多くの手段があって、またそのどれが適切なものなのかが分かりにくい。
『全部がいいのよ』
二曲目にはコレ! と、この曲を選んだ理由を先輩はそういった。
『レインボウだからですか? 七色というか、どんな色でも出せるというか』
『うーん、それもだけど。一番は、リキッドかな』
『リキッド、って、液体ってことですか?』
『そう、液体。全部を混ぜるために水にするのよ、今度は』
月光は、繊細で、やわらかい光。
そして、この二曲目の題名にはRainbowが付く。
『天くん、光を見たい時どうする?』
『――なるほど、そういうことですか』
『しししっ! そういうこと』
ここで。この曲で。一気に人を集める。
けれど、この曲を演奏するには雲が邪魔だ。
曇天の空がここにきて弊害になる。
『でも、多分当日の天気は……』
『私たちから出せばいいのよ、光を。今の天くんならできるでしょ?』
レスポール・ゴールドトップ。
環さんが直してくれたギターで、使い道を決めた俺の演奏で、確実に、あの時よりも濃い、強い光を放つ。
やっと追いつけた。
先輩の金色のドラムが呼応して発光する。
奔放に、四方八方に、所構わず照らす。
まさに『光』そのもののようにして。
「なに? あれ」
「きれい!」
「どうなってるの!?」
「あそこだけ明るい」
『音の流れ』
リズム。テンポ。その速さを変える。
スピードを、流れを、必要不可欠な『水』にする。
ドゥドゥタン ドゥドゥタン ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥ
ダンスダンッタン ダンスダッタン
ジシジシジジ テテッテッテ テレッテテテトゥトゥトゥトゥトゥ
ジャシジャシジャ ジャッジャッン
人が集まってきていることが一目で分かる。
「ここからね……」
「ここからだな……」
「生み出せるの……その二つだけで」
虹は色のグラデーションで存在を顕示する。
今こそ光と水をひとつに。
ギターとドラム。二つの楽器が奏でる音で。
虹を作り出すのならそこはやっぱり雨だろう。
でも、どんな
鮮やかで、派手な、まるで手が届きそうな虹を。
「静かな雨よ」
先輩の声が俺の耳に鮮明に届く。
静かな雨……。
俺は、今まで見て、感じてきた雨の中で一番静かな雨を思い浮かべる。
ザーザーという、間隔のまったくない音が落ちてくるクログロとした空。
次第に、その色が薄くなり、同時に厚みも失っていく。
白い線。一粒一粒が見て取れる。
ここが幕引きだと、音を立てずに捌ける雲。
チトチト。タトタト。とその音を変える。
真夏の突然の豪雨。夕立。その最後の静かな雨。
チトチト チトチト
タトタト タトタト
「「「「!」」」」
「うそ……」
「見て!」
「虹だ!」
「あんな虹、初めて見た!」
白い線が落ちてきた。
俺と先輩を取り囲むようにして現れた七色の円環。
音が越えていく。
越えていった先から、いくつもの声が聴こえてくる。
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