強制的経験。
あの事件以来、音楽室を俺たちの部が使うことを学校側がよく思わなくなっていた。
最近知ったのだけれど、うちの高校は吹奏楽が有名で、全国大会常連校らしい。
そんなこともあって、この高校は『音』に敏感だった。
だから、この間の『騒音』騒動は高校にとってかなりマイナスイメージを作られてしまったことになった。
「全然知りませんでした。ならどうしてこうやってうちの部が音楽室を独占して使えてしまってるんですか?」
「使う必要がないからよ」
先輩いわく。
吹奏楽部には、音楽室とは別の、音楽ホールと呼ばれている施設が学校とは別の場所に建てられ、設けられていた。
普段はそこで練習するので、音楽室の教室は授業以外では使うことはない。ということらしい。
なのに、制限をつけられ、悠々自適な活動を抑制させられたことを、俺もだが、それよりなにより先輩が激怒していた。
「たわらっちも、たわらっちよ! 顧問なんだからもっと学校側に掛け合ってくれればいいのに!」
珍しく先輩が人のことを棚に上げて、文句を言う。
「もう怒った! やってやる……やってやるわ。最初からそのつもりだったけれど、堪忍袋の緒が完全に切れた。今年の文化祭は私たちの演奏だけの年だったと歴史に残してやるわ……」
そう言い切って、「し、し、し、し。」と不敵に笑った。
「それにはまず、天くん! 確かにここ最近でほとんど完璧になったとはいえ、こんなどこの誰にでも出せるような音じゃ私は納得しないからねっ! そこのところ、ちゃんとおがたっちのとこでやっておいてよね!」
「はい……」
ここ数日ずっとこんな感じだ。
その状態が最近デフォルト化しつつある先輩に対して返事をした俺はといえば。
部の活動時間が授業が終わってから一時間だけとなってしまってからは、BURSTで毎日バイトをしている。
店営業の八時まで接客などをし、スタジオは0時までだったので、それまでのだいたい六時間くらい。
母さんから前借りしたアンプと弦の代金を稼ぐという目的も確かにあったが。
店長がいってくれた、『毎日来い』ということが、スタジオが空けばその時間はずっとタダで俺が使っていいというのが一番の理由だった。
「緒方さん。今日21時でスタジオが空くんで、いいですか?」
「おう」
「ありがとうございます」
「そういえば、今日も天地から電話あったぞ」
「すいません。俺も言ってるんですけど」
「今までで最高だな、あいつ」
「なんですかね。分かりかねますけど……俺じゃ」
店長のその言葉に答えながら一秒でも早くスタジオに入りたい俺は準備をする。
「どうだ? 馴染んできたか、そいつは」
「馴染むもなにも、さすがというか……。使えば使うほど、このギターのあまりの使い勝手の良さに毎日驚いてますよ」
俺はケースから店長から借りている、SGを取り出す。
白のギブソンSG(ソリッドギター)。
握りやすいネック。
ハイポジションまで弾きやすい、ダブルカッタウェイといわれるクワガタの頭のような形の、薄く、軽いボディ。
俺の個人的感覚では、当たり障りのない、すぐ馴染む音が鳴るギター。
このSGは、店長が長年愛用しているものを一時的に貸与されている。
「部活の時はアコギも使ってるんだろ?」
「はい。というかいろいろあってアコギしか使えません。なんで、先輩のフラストレーションは貯まる一方ですけど」
「くくくっ、鮮明にイメージできるな、それは」
ここに……BURSTに出入りすようになって本当によかった。
恩恵。
俺的に言えば、それは『知識』と『技術』だ。
それは恩寵のようなものも生んだ。
知れば知るほど。
磨けば磨くほど。
理由や確信を俺は、毎日確かな感触として実感できている。
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