セットアップ!

曲順が決まった。


一曲目 『月光』

掴みどころのなく、宙に浮いている曲。

俺が初めておぼえた曲。

ゆっくりなテンポで、地に足を付けた状態をフワフワと浮かす。

「スタジオじゃ簡単って言ったけれど、もしかしたら今回に限ってだと一番難しい曲になるかもね」

と先輩いわく。


二曲目 『Over The Rainbow』

明るく、能天気。

まさに、そのまま先輩のことを現したような曲。

当の本人によれば、

「不本意だけどしょうがない。この曲は七色の響き。つまり、キャッチーで、耳馴染みがすごく良い。人を集めるのには持って来いなの!」

そういい切った。


そして最後。

『黄金の嵐』

まるでインド映画のような題名の曲。

これにはとにかく俺は困惑し、困難し、難航した。

リズム、テンポ。楽譜として明確に決定づけられてはいるが、それが明白なものだと言われれば絶対にそんなことはない。

現段階の俺では正確なことは言えないが、ただ、俺はこの曲が一番好きだった。

「だと思った。だから選んだの!」

そういって、いつものように「しししっ」と満面で笑った。


偶然なのか、それとも意図的なのか。

決まった曲順は、俺のおぼえていった順番どおりだった。


「すごいですね。これだけの曲を作曲できるなんて」

「ちがうちがう。私じゃないわ、作ったの」

「じゃあ誰が」

「奏よ」

「かなで、って誰ですか?」

「はぁ、やっぱり覚えてない。この前会ったでしょ?」

「?」

「ライブハウスでピアノ弾いてた女の子!」

「ああ。先輩が喧嘩してた相手ですね」

「うん、まあ、そうなんだけど……イヤな覚え方してるわね」

「どこがですか?」


先輩と以前一緒に演奏していて、まだ部に所属しているピアノ担当。そして一緒になってギターを探していた親友。


「私たちはオリジナルしか演奏しなかったの。でも、そんなことが出来たのは奏がいたから。二人しかいなかったからどんな楽器でもそこそこ私たちは演奏できる。でもそれは、どこまでいっても。奏の言葉を借りて言えばじゃないってことなの」

「なら、先輩のドラムと同じように、奏さんのピアノもそうってことですか?」

「それは私には分からない。だって私の超一流はドラムだけだから」

「それじゃ超一流のギターなんて見つけることは不可能じゃないですか」


『奏っ! あれは違う。よく聴いて、違うから』

あの時先輩は奏さんに向かってそう言った。


「なに言ってるの? 天くんのギターは超一流よ!」

言った先輩の顔は百パーセント、疑う余地皆無で、まるで細胞レベルでその表情を作り出していた。

「でしたね。ありがとうございます」

「?」

その言葉の意味とはかけ離れた俺の出した音に対して、頭の上にこれもはっきりとしたクエスチョンマークを先輩が浮かべた。

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