『黄金の嵐』・共鳴

ギュヒーーーーーーーン!!


チョーキングは共振を生む合図であり、スイッチだ。


駐輪場の屋根がゴトゴトと音をたて、停められていた自転車が次々に倒れる。

校舎の窓が、あの時以上にガタガタと震えだす。

そんな中で、最も被害を受けたのは当然、取り囲んでいた観客たちだ。

それぞれが無意識に一番大切だとその瞬間思ったモノを、突然起こった突風に飛ばされまいと押さえる。

それは一旦、俺に向けた意識を、観客各自へと戻させる。

どうして今そうなったのか、と、ここいる誰しもが考える。

そして行き着く。

自分の目の前で演奏している『音』がそうだと。

俺は、刹那の時間、観客一人ひとりと目が合ったかのような錯覚を覚える。

これは初めてのことだった。

思わず口の端が上がる。

誰一人、もれなく、余すことなく、俺の音が届いていると確信できた。


ほんの少し、本当に少しだけ。

きっかけを作ってしまった俺にしか気づけない、揺れを感じる。


ッタン!

先輩のドラムが遅れた。


思わず俺は心配な顔を向けてしまう。

けれど、というか案の定先輩は、まるでほんの些細なことだと、子どものように照れ、少し悔しそうにハニカんだ。


「ほんと、いい性格してるわね……


先輩の笑顔には実は、まだ先があることに、俺も、もちろん店長も気付けるはずもなかった。


「でも、があるのは鳴も一緒なんだからね」

卑屈で、けれど聡明な声。環さんの声がする。


俗に言う、いわゆるサビ。

嵐が旺然おうぜんになる寸前のほんの一瞬だけ、この曲は演奏が止まる。


「しししっ!」

一番近くにいた俺にだけその声は届いた。


ダジャシャーーーーーン!


鳴音。

先輩の音を聞いた瞬間、全員が空を見上げた。

鳴った音に一斉に、共になってそうしていた。

もちろん、もれなく俺もだ。

まさかこうして演奏中に空を見上げることになるなんて。

「ははっ」

諦めのような、気の抜けた声が漏れた。

けれどそれが一瞬にして驚きに変わる。

真っ青に抜けたそら

増やしたことで増えた音が、ひとつの雷鳴となって青天で鳴り轟いていたことに。


「あーあ、やっぱ分かっててもこうなっちゃったかぁ」


ダダダダダダダッダダダダダダッドンタッタドンガシャーーーン!


青天に霹靂が鳴る。

耳だけじゃない。

目でも、肌でも、大口を開け放ったことで舌も、内蔵もすべて。もちろん心臓でも鳴る。


『共鳴』


より深く、隅々まで。

無理やりにして詰め込まれた極大な鳴音が、発散を求めて内から外へとさらに鳴らす。


初めて自分のドラムを叩いた先輩の音を聴いた時に感じたのは、グウっと抑え込まれる圧力のような、外からの音だけだった。


俺はあの時の先輩の謝罪の本当の理由を理解する。

誰よりも先に。

当たり前だ。じゃなければ俺はここにいる意味がない。


外からの揺れ。

内からの鳴り。


それはごく自然なものだということに、ここいる全員が気づけていない。


音の本質に。


先輩と視線が重なる。

気づいてる。

そのことがお互いに分かる。


きっかけは結果へ。

俺と先輩を中心にして、今まさに、嵐が完成した!

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