同族愛好!!
今……じゃないな、ずっとだ。
多分俺は、言ってはいけないこと、ましてや当事者を前にして公言するなんてどうかしてるんだろうことを、平然と、平坦な音色で喋ってしまう。
「聴いてみたいですね。ぜひ、環さんの答えを」
俺はまっすぐ環さんだけを見つめる。
「別に私は、そんな……」
環さんは、俺のそんな目線に耐えられないのか俯く。
「詰まることなんてないです。今頭に浮かんだことを言ってくれれば俺は納得します」
聞き終えた瞬間、バッと俯いていた顔を上げ、環さんは俺と目線を合わせる。
驚いているような、困っているような。いや、その両方だろう表情で。
「いいわ……言ってあげる」
その瞬間、それまでの表情が、強い、はっきりとした意思でもって敵意を向けてきた。
「『顕示』よ! 自己顕示でも、顕示欲でもない。顕示! 私がやりたいことはコレよ! どうよ! まいったか!!」
本当にすごい。
これが『自由』なんだろうな。
「最高です。納得どころじゃなかったです」
一緒でした。
ここまで言えないのが俺だ。
「一緒ね」
純粋な先輩の声がする。
「ほんとっ! だから言いたくなかったのに!」
軽快な環さんの声がする。
「すいません」
俺の声は相変わらず雑音だ。
「えっらそうに! 何様よ、まったく。あの演奏がなかったらぶん殴ってるところよ!」
「しししっ! だそうよ。良かったわね、天くん!」
「はい」
精一杯でもない、やっとの笑顔で答える。
「決めた!」
突然大きな声を環さんが出す。どこかの誰かさんのように。
「あんたのレスポールは私が面倒見るから!」
「それって、どういう……」
「うっさい! とりあえず置いてきなさい。古いギターだし、弦交換しかしてないけど、他にいっぱい気になるところがあったから。全部治す!」
「でも」
「問答無用!」
「はい……お願いします」
俺は素直に頭を下げる。
「はいっ! 一件落着ね」
そういって、パンという音が聴こえたあと、
「さ、晩ごはんにしましょ!」
優しい楓さんの声がした。
楓さんの言葉につられるように顔を上げ空を見上げると、圧縮された時間を思い知らされた。
金色の光は、いつのまにかぼやけ、世界全体を淡く照らす。
今俺に見えている遮蔽物のない空間。
短くて広い。
そんな世界だから、初めて弾いたギターはゆうに超えていった。
どこまでも。
俺が目視できる範疇なんてラクラクに、ノビノビと。
それはすごく気持ちよかった。
なんなんだろうか。ほんとに。
ただ、まだ気持ちいいとしか分かっていない俺でも言える。
『音楽なら自由』だと。
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