『好き』と言える資格。
「綺麗よねぇ……」
「ほんとぉ……」
頬をほんのりと紅潮させ、目をうっとりと細め、まるで崇め称えるように、丁寧に作業台に寝かされた俺のギターを同い年の女子二人が眺めている。
「どうしてこれを天くんが……」
「それだけが納得できない……」
キッと、四つの純粋な眼が一斉にこちらを向く。
「あの、こいつずっとうちにあったみたいで……母さんが俺のものだってことで……ええっと、つまり、俺のギターってことで……」
同年代の、それも女の子二人分の眼力がここまで強力だとは。予想を遥かに超えて実感させられる。
「ということは、あなたの母親がこのギターを買ったってこと?」
「さあ……」
「さあって……そこ重要でしょ」
「はぁ」
「なにその反応は……」
そういって先に環さんが俺から目線を外す。
「あのね天くん。私、あのドラムセットを少しづつ自分のお金で買い足していったから分かるの。楽器って、事このレスポールに限って言わせてもらえるのなら、しっかりと『物』としての価値を知っていなければ駄目だと思うのよ……」
そういう先輩の顔は、会って今日まで見てきたどの表情とも違っていて、それが、嫌悪というとてもこの人らしくないもので、その原因が自分にあることがはっきりと分かってしまった。
「店長も少し言っていたけど、楽器は道具なの」
「知ってますよ、そのくらい」どうしてか、でも強い口調で言う。
「はっ! 知ってるわけないでしょ! ならなんであんな答え方しかできないのよ。そもそもあんた楽器好きなの?」
その言葉は彼女だから言っていいものだと思ってしまう。
いくら楽器、ドラムが好きな先輩であっても、それは言えない。
そんな気がする。
「さっきはあんなこと言ったけど撤回よ! 本当なら今すぐにでも私が張って調律したこの弦を切ってしまいたいところだけど、そんなこと絶対にしたくない。そもそも、一本しか弦が張ってないってどういう状況なのよ。ありえないから!」
どうしていつもこうなるんだ。
あの楽器店の時と同じだ。
確かに、楽器が好きか? なんて聞かれても俺はそれに答えることはできない。
だってまだ分からないんだから!
これじゃ、好きになる前に嫌になってしまう。
「なに? 何か言いたそうな顔してるけど」
環さんに言われて、今自分がどんな表情をしているのかなんとなく分かる。
でも、そんな顔を向けてしまっていることが嫌でつい俯いてしまった。
おそらく、環さんが弦を張る前に綺麗に拭いたんだろう、昨日見たゴールドよりもゴールドな色。
そこに、この工房のライトに照らされたことで光を受けたレスポールには、微妙に盛り上がった表面に沿って、歪んだ俺の顔がはっきりと写り込んでいた。
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