抵抗・拒絶・否定……だから今はただ我慢。

個人的感想だ。


だから、俺の中のそれすべてが正解ということ。

間違いなんて一つもない。


『音』じゃない。

こんなのが。

ナンセンスでセンスが無い。


「違う」

爆音の中、俺はしっかりと声にして出す。

「でしょ」

聴こえてほしかった。だから嬉しい。だから少し気持ちよくなった。


暗転して始まったライブ。

5分くらいした今でも明かりがあるのはステージだけ。

当然俺のまわりにその類の光は当たっていないし、この先当たる気配もなかった。

今と成って、目の前で行われているものがどれだけかということが分かるようになった。

ミスなどあるはずのない当然な完成度、エンターテイメントな演出。

間違いなく俺達はあそこまでじゃない。

でも、悔しくもなんともない。

だって、俺のほうがという確信と確証がある。

確信は大前提としてあり、確証は最近の俺の音がそうさせた。


「上手いですね」

「……」

「奏さんが選ぶのも分かる気がします」

「……」

「あれプロなんですね」

「……」

どうやら先輩は、目の前のプロのバンドについて何も話すことがないらしい。

ただなんとなく無表情でステージを見続けている。

そんな先輩にもライトはやはり当たっていない。


だからか。

と、そんな風に考えていいものか。

体の中心。多分、鳩尾みぞおち。そこに何かが貯まっていくのを明確に感じる。

あんまり良くないものだろうそれが、ここまでスムーズに貯まっていくのを、意識的に止めることはできただろう。が、そんなこと絶対にしないという確固たる意思が軽く蹴散らす。


一層激しくなった無駄にたくさんの声に、意識を戻される。

それが演奏が終わったことだと気づく。

結局俺と先輩は、最後までそこに居続けた。

どちらからか聞くことをしなくても、ここに居続けた理由が一緒だということがはっきり分かる。

会場を、さっきまでのものが引き伸ばされたような薄まった明かりが照らす。

俺は何気なく先輩のことを横目に見ると、ムグムグと微妙に動く横顔が目に入ってきた。

そして、俺も同じことをしていたことに気付く。




「機材はここに置いてブルーシートをかぶせておきましょ!」

「怪しまれませんか?」

「平気よ! 文化祭という非日常は私たちに味方よ!」

まるで魔法のように先輩が言う。


明日のステージ。その横にあるここ駐輪場は、先輩の提案だけあってすべての条件が奇跡のように備わっていた。

使用するアンプなどの機材をこの時期の雨から防いでくれる屋根がしっかりあって、その広さの割に使用状況が少なかったこともあり、スペースも十分確保できた。


「ここからだと、アンプのコンセントだけじゃ足りないですね」

「ああ、それなら大丈夫よ。たわらっちに頼んでおいてあるから」

「え!? 先生知ってるんですか?」

「クラス展で使うって言ってあるわ」

その横顔には、なんら感情の揺らぎのようなものは見えない。

「そういうことなら」

だったので、俺も同じようにして返す。


「たまちゃん、ギター間に合うって?」

「はい。夕方には持ってきてくれるって連絡ありましたから」

「ふーん……」

その「ふーん」には、確かな揺らぎを感じた。

「なんですか?」

「べつに~」

「?。誘ったのは先輩ですよ。今日だって、先輩の家に泊まるんですよね?」

「当たり前よ。思春期真っ只中の男子高校生とひとつ屋根の下、一晩を共になんてさせるわけないでしょ!」

どの口が言っているんだ……。

「もしそうなったところで、なにもしないですから」

「ええー? ほんとにー? だってたまちゃんて、ちっちゃくて可愛いじゃない。襲おうと思えば意図も容易くそうできるでしょー?」

「どっちが思春期真っ只中なんですか……。いいから手動かしてください」

「……」

「――先輩?」

「――なら聞くけど」

「え」

「天くんはどんな女の子が好きなの?」

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