ゴールドのギターと金色のドラム。


たった二つの楽器が起こした嵐は、すべてに影響し、多大な負荷をかける。


二律背反は、学生という人種にはキツすぎて。

妥協は簡単にできるし、はたまた、どこまでも追求できてもしまう。

始まりは不明で、終わりが見えない。

感じた確かな感触。その理由が分からない。


もし、音の先になにかがあるのなら……。

俺には分からない。

なにかが分かりそうで分からない。

多分そこにはなにかがあり、あるという確信もある。

小さくて大きい。そんななにかが。


黄金のスポットライト。

真円の光が空から降りてきている。

それがなんだか答えのような気がした。


観客たちは、俺と先輩の創り出した嵐に、各々が、それぞれの感覚でもって耐えている。

そいつは危険を察して。

そいつは快楽を感じて。

そいつはなにかを諦めて。

そいつは負けを認めて。

そのすぐ横のそいつは負けまいと全身を強張らせている。


気持ちいい。


そんな連中を見ながら、俺は、イける。

難しいことなんてないのかもしれない。


ダンッ!!

「!」

ダタンッ!!

「分かってます」

タタタン?

「ほんとです」

ンッタンタン。

「ほんとですって!」


って、あれ?


すごい静かさだ。

あまりにもこういう状況の全く違う世界を目の当たりにしてみると、まるで時間が止まってしまっているかのように感じる。


ゲホッ!?

なんだ!? 

突然息苦しくなる。

喉が急激に締まり、呼吸がうまくできない。


ガハッ!! グッ、ゲェッ!

次第に嗚咽混じりに鳴り、吐き気を催す。


「天くん!!」

その後すぐ、ケホケホッ! という息遣いが聴こえる。


滲んだ視界に、先輩の焦った顔が不確かに見て取れる。


「限界よ! これ以上はもう! ガハッ、ケホッ!」

「でもっ! まだ、っおれ、はゲホッ、いたい! ここに!」

「ダメ! ちゃんとして!」

「だからって!」


気づいてた。でも、無視した。

もう少しでイケる。イクことに必死になりすぎていて聴こえなくなった。

ギターの音が。


「これ以上は無理よ!」

「なんで!」

「このまま演奏しても、あなたの欲しいものには届かないわっ!」


すぐ前では、一定の距離を置いて。

自分のほうが! と、 我先にと、観客がせめぎ合うようにして激しく動き回っている。

でも、そんな光景を前にしていて肝心の音は聴こえてこない。




『音楽は、ライブは、目の前の観客がいて初めて成立する。

でも。そうだな……例えば、それとは真逆なのは小説なんかがそうだ。

いくら人気があって、売れているとしても、目の前にオーディエンスはいない。

一人の世界に閉じ籠もって、音楽でいうところの『それ』が発散されることはまず無い。

ダイレクトじゃないんだ。

それはキツイし、悲しくもある。

天、お前はそれだ。

深く、細く潜っていく。

だからこそ聴き漏らすな。

天地の、母親の、ギターを治してもらっている子の、他にもこれからきっとたくさん出てくる。そんな人たちの声を』




「聴いて! 天くん。みんなの声を!」


知らないやつらの声なんて聴きたくない!

雑音にしかならないじゃないか!


「違う」


聞いたこと無い声が突然、どこからか聴こえた。

静かで、朱い音の、そうじゃないという危険信号を俺に向けて。


朱色の太陽。


ライブのはじまる前に廊下ですれ違ったあの白い太陽とは違う。

落ち着いた怒り。そんな声だ。


「ンガハッ!」

その瞬間、今までできなかった呼吸が突然回復する。

「ケホケホッ!」

次に先輩の声。

そして……。


「「「「「「ウワァァァァァァ!!!」」」」」



怒号のような蛮声。

泣き声のような濁声。

鶯舌おうぜつのような淫声。

乾いた喚声。

湿った色声。

聴いたことのない。経験したことのないさまざまな声が一気に、一つの塊になって流れ込んでくる。


ここまでの俺達の演奏を丸ごと、そのまま反射でもしたかのようにして。生きていく中で、ここでしか聴けない音となって。


『歓声』というものになって。

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