……親友
バタン、と重い音を出して扉が閉まる。
「ごめんね、天くん。あんな言い方して」
「え?」
「ギターは見つかったなんて、まるで、それこそ道具みたいに……」
「ああ……」
道具。
多分先輩は、俺を使うという意味でそのことを謝っているんだろう。
でもそれは、少し俺の考え方とは違う。
先輩の言葉を聞いた時、俺は俺の解釈そのままで捉えた。
『ギターを使える人間を見つけた』と。
だから、謝れたところで俺には当然当て嵌まらず、多分ということでしか理解できなかった。
「誰なんですか? 随分親しげに喋ってましたけど」
だから普通の、自分のよく知っている声で聞く。
「親友」
一言に、一息で答える。
「親友?」
あまりに堂々とした先輩の答えに、つい、そうオウム返ししてしまう。
「なに? 私にだってそんくらいいるわよ」
いや、俺にはいないんだけれど。
「
「は? うちの部って俺と先輩だけじゃなかったんですか?」
「私がいつそんなこと言ったの? 奏はうちのピアノ奏者よ!」
とてもさっきまで言い争っていたとは思えない相手のことを、顔中の筋肉を弛緩させ、それがまさに親友のことを語るような笑顔全開で生き生きと言い張る。
「ならどうして部活のときいないんですか? それに、ギターを探してるんなら一緒に探すのが当然じゃ」
「まあ、普通はそうなるわね」
そこまで言って急にさっきの、響奏と喋っていた時と同じ表情に戻る。
「……」
だとしたら、お互いに目的を果たしてしまった今。おそらく火種になりうるのは俺とあの男だ。
実際にああして親友同士が言い争うことになるほど『ギター』を渇望していて、お互いにお互いのギターを引き合わせ、「どう?」と、今回響奏が先制パンチを先輩に喰らわしてきた。
どんな経緯があって、現状どんな関係性なのか知り得るはずがない俺からしたら、とばっちりだし、いい迷惑だ。
言いたくないことを聴くのは好きじゃない。
なによりも、先輩のこの顔は好きじゃない。
「まだ部員なんですよね?」
だから聞く。
「え? うん……」
「なら、」
そうするしかないか。
「あの人と組むんですかね?」
「どうだろ……でも奏のことだから多分」
「なら、今度はこっちの音を聴いてもらいましょう」
「……どうやって」
「そこは先輩が考えてください!」
俺は、そこで慣れない笑い方をする。
しししっ、と。
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