いつかの記憶

第33話 優しさ

中学三年生の秋、俺はクラスの奴らに虐められていた。

正しくは、虐められていたというより中学生特有のノリに着いていけなかった。


俺だけ取り残されて、いつの間にかそれが当たり前になった。

瀬戸は一人でいるもの。という概念が固定されてからは、誰も俺と話したがらなかったし、話すと茶化されたり、触ると汚いと言われたりもした。


いつしか学校に行くのが辛くなった。

皆の顔を見るのが嫌になった。


でもそんなの情けなくて、母さんや父さんには言えなかった。

だから中学三年生の俺は、歯を食いしばって必死に食い下がった。


ある朝、母さんはいた。

パートで居ないはずの母さんがいて、登校準備をしていた俺にこういってくれた。


「おはよう! ねぇ、今日は二人で映画館に行かない?学校なんか休んでさ。」


訳が分からなかった。

何故映画館なのか。

なぜ頑張っている俺の邪魔をするのか。

今までの俺の努力を無駄にしようとするのか。



俺は母さんを無視して一度自室に戻った。

夜寝る前も、朝起きてからも、学校に行くのが嫌で、明日が来るのが怖くて、一人で戦ってきた。


今朝だってそうだ。

それなのに起きてみれば次は映画館に行くだとか言い出して、ズル休みって言われんじゃん。

それだって、分かってないじゃん。

俺辛いんだよ。


頑張ってるんだよ。

情けなくて、恥ずかしくて、ひたすら抱え込んでた涙を、

瞼の裏にいっぱいになるまで隠した涙を、流せっていうの?


自室で暫く泣いていた。

学校で目が腫れてるって笑いものになるかな。とか考えたけど、もうどうでもよかった。

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