第103話 情けなさ

結果としては、成功に終わった。

それならばいいだろうと校長は頷いてくれた。


俺は何も言っていないが、俺の企画した卒業祭は開催されることになった。


嬉しくなかった。


横に立っていた聡明もきっと同じような不甲斐なさを感じていたんだろうと思う。


唇をグッとかみ締めて、俯いていた。


慰めの言葉は浮かばなかった。


高嶋は何も言わなかった。

大量のプリントを置いて校長室を出ると、

無言のまま下駄箱に向かう。


高嶋は誇らしげになることもしなければ俺も話すこともしなかった。


聡明は声をあげた。


「高嶋。ありがとな、助かった。」


「いいんだよ。絶対こうなると思ってた。」


それだけで終わった会話。

俺は感謝すらいえないでいる。


一番考えていたはずの俺は、その場しのぎの高嶋に負けたのだ。


悔しかった。


一番考えていなければいけなかった。

そこまで思考は至らなかった。


高嶋は見えていた場所を、景色を。

俺は見つけることも出来なかった。


それなりに長い時間をかけて練った計画を全て高嶋に、ほんの一瞬で取られたような感覚だ。


下駄箱につき、奥の方の自分の下駄箱に行くと、そこでふと思った。


この前高嶋の家で付箋を書いていた時から、高嶋は気づいていたのかもしれない。


一歩引いて、見てくれていたのかもしれない。

そうだとしたら、高嶋は、なんて頭がいいんだ。


悔しかった、正直うざったかった。

でも、俺より優れていた。


事実だ、全部。


高嶋は靴に履き替えると

「駅前のクレープ屋いかない?」と俺らを誘った。


「打ち上げかっ?」と素直に反応する聡明と


声を出す気力も生まれない俺。


「打ち上げ〜!ね!あんたもどう?」

高嶋は俺の肩を叩いて言う。


「ごめん。いいや。」


やるせない気持ちでいっぱいだった俺に、一緒にクレープをかじり笑い合う気力はなかった。


期待していたはずの喜びと共に俺の前に現れたのはやるせなさと無力感だった。

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