第104話 一の日記。

「僕は、僕じゃない。誰も、僕じゃない。何も、僕じゃない。」


あとから見たらきっと馬鹿らしいんだろうなぁ。

そう思いながらテキストの答え合わせの冊子に、毎日思いを綴った。


暗闇が妙に落ち着いた。


お父さんはきっと今は寝ているけど、さっきまでは女の人の悲鳴みたいな声が、耳を掠めた。


正直全部嫌になってきてる。


左の大きな窓から射し込む月明かりに甘えたくなる。

この夜に逃避行を出来たら、どれだけ幸せだろうか。


僕の手はもう、動かなくなってしまった。

きっと病気だ。

心の病気だ。


手は動かない。

目も見えないみたいで、文字をいくら追っても頭に入らない。


どれだけ集中しようとしても、気が散る。


人形としての僕の寿命なのかもしれない。

僕は人形として、限界を感じているのかもしれない。


優しいのは、床に広がる月明かりだけだ。


光も付けずに月明かり一つで教材を読書している。


そういえばそうだ。


学校では卒業祭っていうものをやるらしくて、参加は任意だけど、異例の事だからって色々な承諾事項があって、参加するには親の印鑑が必要らしい。


僕には無理だ。


お父さんに印鑑なんて貰えるわけが無い。


参加したいけれど、親の承諾が貰えないんだから。


はぁ。と、青白い床に重い溜息を落とす。


参加したい理由はたった一つ。

雛子さんだ。

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