第20話 井戸端会議
ゆるりと曲がっていた歩道は、瀬戸と私の家へ続く太い車道へと出た、それを私は真っ直ぐ進んでいく。
心の中で、彼と私に謝りながら。
大人の女性同士の話し声が聞こえた。
足を止めてよく耳を澄ます。
「―なの。えぇ…良くなるといいのだけれど。」
「そうなんですね、、お気の毒に、お大事になさってください。」
お母さんと、瀬戸のお母さんの声だ。
「ありがとうございます…」
「それでは私は、主人が帰ってくるので、失礼します。」
「はい。」
「お大事に。」
「…ありがとうございます。」
瀬戸のお母さんは本当に元気が無かった。
美人で、いつものスラッとした立ち姿と容姿からは、
いかにも仕事のできる秘書だ、と言わんばかりだったのに
今はすっかり疲れきってしまっているようにみえた。
もう体に力が入らない、と言うべきか。
容姿端麗な影はまるで、萎れた花を感じさせた。
流石に今の状態の瀬戸のお母さんを訪ねる事は出来ないと思った。
私はそのとき初めて、愛していたんだな。と、愛を俯瞰で見た気がした。
家にそのまま帰る気にもなれず、学校に帰る気にもなれなかった私は、スマホを取り出して“ひなこ”のメッセージのバナーをタップした。
「ごめん。色々あって大変だった!駅までかばん持ってきてくれない??」
雛子とは特に用事のない日は必ず一緒に帰ってるから、今日もそうしようと思った。
心に残った寂しさを、埋めたかった。
家に帰ってお母さんに詳しく聞こう。
あぁ。今日の夜ご飯、なんだろう。
涼しげに吹いていた蒸し暑い風は、なぜか清々しくて。
私の心の傷を、絶え間なく抉ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます