第15話 変わらない安心感

「おはようございます。」


俺は結局休めなかった。

あのまま家に帰らなかった性で、俺の今の携帯には六件の母からの心配のメッセージが届いていた。


「今日はお弁当いらないの?」、「お友達の家にいるの?」

と俺に気を遣いながら心配してくれる母に、今だけでも会いたいと思った。



でも、母のメッセージに気づいた時には、駅のロータリーに面した交番のベンチで、自販機で買ったホットの煎茶を飲んでいた。


汗で全身がびしょ濡れだった俺は、夏の湿った風が吹くだけで強く寒さを感じた。

ましてや風邪だったので、きっと熱が上がっていたんだろう。



俺は、控え室で座っている大林に「おはようございます。」と挨拶をしたのだが、やはり聞こえていないみたいだ。

イヤホンはしていない、俺の声が聞こえていないのか。


まぁいい。

今は憂鬱ゆううつな気分にすらなれなかった。


目の前で頭を潰されたヒトをみたのだ。



生きていると感じることが、何より安心した。

今、体があること、体が熱いということ。


血が回っているということ。


でも俺の心にはどこかまだ不安があった。

「あいつが、この店に来るんじゃないか。」


この日は初めて、大林が働かない事を恨めなかった。

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