第21話 月形 雛子の気遣い
「瑞希ちゃ〜ん!!」
なぜか駅から帰ってきた瑞希ちゃんは、顔が腫れていた。
そっか、泣いていたんだ。
きっと瑞希ちゃんの事だから瀬戸くんの家まで行ったんだろうな、それで泣いているってことは。
瀬戸くん、亡くなっちゃったんだ。
「ありがとう雛子。」
「ううんっ!これくらい私の手にかかればお易い御用よ!」
「ははっ、重くなかった?」
「う〜ん。ちょっっと重かったかも」
私は精一杯の笑顔で瑞希ちゃんを迎えた。
正直、私も泣きそうだった、瑞希ちゃんが泣いていると分かっただけで私の目は限界を迎えていた。
「ねぇ、なんで泣いてるの?」
「えっ!?あ、ぇっ、あ!あ、アレルギーなんだよね!」
だめだったかぁ〜。
瑞希ちゃんは、ははっと笑って頬を拭ってくれた。
その後私たちは、駅に入っているカフェに入って、ゆっくり時間を過ごした。
何も言わない時間の方が多かったし、それも気まずくは無かった。
スマホを見ることもしないで、ガラスの向こうで流れる電車と、落ち込む夕陽をただ眺めていた。
じきに私たちは笑って話せるようになったけど、それでも今日は文化祭の話を絶対に出さなかった。
「ねぇ、ありがとね、雛子。」
「えっ、?」
突然話しかけられたので、うまく反応が出来なかった。
「迎えに来てくれて。」
「あ〜!!全然いいよ!気にしないで!」
夕陽が沈みきったのを見るなり、私たちは電車に乗り込んだ。
それから電車ではそれなりにお互いでアニメや漫画、最近の俳優の話なんかをしていたけれど、私と瑞希ちゃんは帰路が違うので、途中で別れることになる。
「また明日ね!」
「うん。また明日。」
瑞希ちゃんの乗る電車を見送る。
最後まで寂しそうだったな。
頑張って笑ってくれたけど、ずっと悲しかったんだろうな。
私はそれだけで胸がいっぱいになって、視界がうやうやと滲んでいく。
瑞希ちゃんは認めてなかったけど、
瀬戸くんは気づいてなかったけど、瑞希ちゃんは瀬戸くんのことずっと見てたんだよ。
私はそれを知ってるし、だから瑞希ちゃんの悲しそうな顔を見ると、私まで釣られちゃう。
文化祭、瀬戸くん主役なのにな。
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