第28話 再訪
作中では主人公とヒロインのお父さんは、一度も顔を合わさない。
丁度良かった、配役がすこしでもずれると準備が間に合わなくなったり、はたまた役が被ってしまったりする。
どうしたんだろう。
「失礼しますねー。」
半澤が帰ってきた。
手には、番号の振られた紙が入ったファイルを持っている。
「えっとね、瀬戸くん。」
「はい。」
次は声が出た。
「君はもう退院は出来るんだけど、あと三日くらいはいて欲しいな、ほら検査とかあるから。」
「はい。」
「何か不便はある?腕が曲がらないとか、力が入らないとか。」
「大丈夫です。」
「そう。じゃあ、ご飯は食べられそう?」
「はい。」
なんだろう。
頭に力が入らないのか、喉に力が入っていないのか、はいとか、いいえとかばっかりで大した答えが出ない。
ぼーっとしているというか、あぁ。
「時計、そこにあるんだけど今は十一時でさ、ご飯いるんだったら持ってくるよ。それとも、少し待つ?」
「待たなくても、大丈夫です。」
「よし。わかった。」
「あの。親は、友達は、来ましたか。」
「お友達は誰も来てないけど、親御さんつい昨日も来てくれたよ。あ、そうだ、瀬戸くんが起きたこと、伝えないとね。」
「…」
お友達は、来ていないのか。
そうか、そうだったか。
お見舞いの一つや二つ、来てくれていると思った。
期待をしたのだ。
淡い期待を、抱いていたのだ。
皆忙しいよな、そうだよな。
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