第76話 荒い気性

愛されているのかな。

こんな僕は、人形として、愛されているのかな。

人としてではなくて、一つの被検体として、愛されているのかな。


もう戻れない気がした。


もう、いいかな。

愛されているなら、それでいいや。



車が止まるとそこは古い家で、青黒い瓦屋根が時代の匂いを感じさせた。


家のドアは木で、あまりに軽かったし、塀と家の間にゴミが溜まっている。


自転車だとか、朽ち果てた数年前のデザインであろうティッシュの空き箱とか。


それでも家の中は少し片付いていて、お父さんはもう部屋を使いこなしていたから、きっと、お父さんが片付けたか、だれかに片付けさせたんだろうな。


ふと思う。


お母さんがいないや。


「お父さん。ここに僕達二人で住むの?」


「あたりめーだろ。んなこと聞くんじゃねぇよ。」


そっか。お母さん、居なくなっちゃったな。


お父さんはストーブの設置をしていて、少し手こずっているのか、作業中に話しかけたから怒っていた。


少し怖かったけど、お母さんがどうしているかが心配になる。


僕が頭に血を巡らせて、思考を働かせていると、父さんはポロッと僕に言う。


「あいつはもう帰ってこねぇよ。新しい女連れてくっから待ってろ。」


「はい。」


「あ。そうか、お前も遊びたいんだろ?あいつで遊んでたから居なくなって恋しいって訳か!」


ガッハッハと笑う父さんの胸を、僕は人形のように動かない瞳で見つめている。


顔が見れなかった。


笑っていた父さんはいきなり目の形相を変えて机の上にあった紙皿を僕に投げる。


「遊びたい、じゃねぇんだよ。勉強しろよくそが。」


そんなこと、一言も言っていないのに。


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