第11話 人への優しさ。

スマホの電源を消した。


目を閉じて、木々と水の音を聞く。


ふぅ。と一呼吸。


目を瞑って、意識を落とし始めた。



小学校のチャイムが遠くで響く。

わずかその残滓ざんしは俺の耳に届いた。


俺は起きて、me,inで聡明に「体調不良で行けそうにない。ごめん。みんなに伝えておいてほしい。」


とだけ送る。


俺はもう少しこの場所にいたかった。

ここ以外に居場所はなかった。


家に居れば一人で孤独に喰われて。

バイト先は劣悪な環境。

学校では、友達に気を使ってばかりだ。


俺が唯一、居れる場所はここだった。


孤独を感じないし、誰かを恨むこともない。

気を使うこともない。

本当に一人で、しかもそれは優雅で贅沢な時間だ。


もう少し。ここで寝たい。




「すいません。あの!起きてください。」

聞き覚えのない声で目を覚ました俺は、辺りの暗さに驚いた。


目の前には、青い男のシルエット。

この庭園の警備員らしい。


いつも見回りは、風情を壊すからと、始業時と終業時にしか行われないらしく、今は十六時五十分で終業時まであと四十分だった。


この庭園は広いので、まともに歩こうとするとかなり時間がかかる。

そのため十六時三十分という早めな時間に入場制限を掛け、警備員を巡回させているそう。


警備員に終業の知らせをされた後でも庭園を周回できる、親切な時間設定ということである。


俺は体を起こすと、何気なく体が軽くなっている気がした。

「大丈夫ですか?歩けますか?」

と心配をしてくれる警備員。


「大丈夫です。すみません、すぐ出ますね。」


「気をつけてくださいね。」


そうして、警備員と別れると、俺は駅の方へ向かった。

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