第16話 鴉。

何も無く目が覚めた。


ベッドの右に置かれた机の前には窓がある。

その景色にはただの家しか映らないが、何も無いのに首を傾げて電線に止まる鴉はいつも来ていた。


寝ながらベッドの頭上の時計を取る、

見るとそれは、五時三分と表示されている。


鴉の鳴き声で起こされたのか。


机の上で充電しているスマホを手に取ると、電源を付けながら階段を降りた。


玄関の大きめなシューズクロークを開けて、顔を見せた小物入れから体温計を取り出す。

このシューズクロークはあまりに大きいので、誰も上手く使いこなすことが出来ず、いつの間にか物入れとして使われていた。


もし外で怪我をして帰ってきても、直ぐに処置出来るようにという優しさのこもった収納である。


ピピとなった体温計は三十八,七度を表記している。



これでもかなり熱は下がった。


大林を恨めなかったあの日、文化祭の準備で学校に行くなり、聡明を始めとして「熱っぽい。」だとか「顔色が悪い。」と、まるで挨拶をするかのように口を揃えて皆が言うので、昼休みに保健室に行った。


保健室での体温は四十,二度もあった。

正直自分の体が熱いとは感じていたし、重さやかったるさはあった。


しかし自分でもその数字に驚いた。


それからは自分で帰ってきて、寝込んでいたのだ。


帰りの電車では大林に、「バイトには出られなさそうです。」と体温計の写真と一緒にメッセージをしておいた。


バイトは大林と俺しかいないだけで、店長は品出し、接客などを担当しているし、

もう一人の女性スタッフも、あまり見ないが働いている様だったので、俺としては店の営業についての心配はしていなかった。


しかし、店長はじっとしているのが苦手と言って、レジは絶対に入らなので、レジで頼れるのは大林だけである、そこだけが唯一の懸念点である。


大林は、メッセージに既読は付けたものの何も反応はなかった。



昨日というもの、俺が帰ると母が玄関まで来て俺の顔を一目見るなり、細く睨むような目を大きく見開いた。


「どうしたの!?」


俺に寄り添ってくれたが、俺は「大丈夫だから。」と部屋に上がった。


心配をかけさせたくなかったし、疲れていた。

俺はその後すぐに寝てしまって。



目の前の机の上には、冷蔵庫にお粥とスポーツ飲料を入れて置いたよ。という置き手紙。


俺の母さんはいつまでも優しい。


俺は冷蔵庫の前に行き、扉をあけ__


そのまま俺は、冬になるまで目を覚まさなかった。

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