第66話 親子

今日は特別なように感じた。

きっとあいつもそうだったのだろうな。


親子だという感じがこの身に染みた気がした。

何も言えなかったが、外に連れ出した事は良かっただろう、などと一日を振り返り、息子との思い出をつい手帳に書きたくなった。


母さんは前で週刊誌を読んでいた。


アイツは寝てしまった。と思っていたら、階段から足音が聞こえて、俺は急いで手帳を隠す。


そして、手元にあった新聞を広げて読んだフリをした。

母さんには目を細められたが、新聞で顔を隠した。


「おやすみ。」


自分の息子が放ったその言葉四文字は、これ以上無いくらい愛おしかった。


そして、何より嬉しかった。

自分の顔がにやけて阿呆らしくなっているのが自分でも分かったから、新聞で隠しながらなんとか「おう。」と答えた。


外に連れ出して、ラーメンを食って、ゆっくり時間を送っただけなのにこんなにも幸せだ。


これからは早く帰ってこよう。

仕事なんて忘れたい。

仕事なんて要らない。


息子が二階に上がっていくのを確かに聞き分けて俺は新聞を畳む。


母さんは怪訝そうな目でこちらを見つめている。


「何してるの?珍しい。」


「なんでもないよ。」


「何にやけてるの?やましい事でもあるの?」


俺は咳払いをして取り繕った。


「なんでもない。」


「ふーん。おかしいの。」


久しぶりに言われたあの言葉が本当に愛おしい。

自分の子供はいくつになっても可愛いというのはこういうことを言うんだろうか。


「明日の仕事、遅くなるんだよなぁ、、、」


気づけばそう呟いていた。

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