第34話 冷めた料理。

声を殺して、布団に顔をうずめながら泣いていると、ドアの向こうから母の声がした。


「ねぇ、あなたが辛いなら、お母さんも辛い思いをしたい。」


「やだ。」


俺はそう言い返した。


「あなたが優しいのは知ってるの。」


違う。優しくなんかない。

知られるのが嫌なんだ、見られるのが嫌なんだ。

馬鹿にされるのが、最後には見捨てられるんじゃないかって思うのが嫌なんだ。


「学校に行きたいなら、止めないよ。でも、学校というものがあなたを苦しめるなら、学校なんか無くなればいい。行かなければいい。」


「やだ!」


気づけば俺は涙声で、それしか言えなかった。


「わかったわ。嫌なのはいいけど。落ち着いたらご飯、食べに来てね。」


俺は泣き続けて、葛藤をし続けた。

七時四十五分には家を出ていなきゃいけないのに、もう針は八時を指している。


「もう間に合わねぇじゃん。」


それからも泣き続けた、そしていつの間にか窓の向こうを眺めていた。


カラスが鳴いている。


あいつらって、苦しいとか無いのかな。なんて思いながら俺は、こう呟いた。


「腹減った。」


俺は一階に降りると、洗い物をしている母を見つけた。

でも話しかけられたくなかったから。

遅刻をしているのに部屋着の今の俺は、悪い子だから。


いつもの母の向かいの席に座ると目の前には、ラップがかけられた目玉焼きとトーストがあった。


冷めたそれには付箋が貼ってあって。黒くて細いボールペンでこう書いてあった。


「あなたの好きなようにしていいよ。

でも、一つ約束をして欲しい。


怖いと思ったら、苦しいと思ったら、

辛いなと思ったら、休める場所を作って、一息ついてね。


そうじゃないとあなたの努力も、積み上げてきた物も全て崩れちゃうから。」

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