第35話 連れ出して

それを読んでいるうちに母がきた。

急いで付箋をズボンのポケットに入れて、誤魔化した。


母が俺の向かいの席に座ると、俺は置いてあった目玉焼きとトーストを頬張った。

母さんの優しい言葉で、涙をこぼしそうなこの感情ごと飲み込もうと思った。


冷たく硬いトーストは喉を引っ掻いて、途中で止まった。

喉に詰まったそれは取れなくて、咳き込みながら水を飲む。


「あのね、」


俺が顔を逸らしていると母は勝手に続けた。


「どこでもいいのよ。あなたの行きたいところに連れて行ってあげる。」


「今日はさ、もう学校も遅れちゃったし、リフレッシュ休暇にしよっか。」


また俺は一口頬張る。


「どこが行きたい?お母さん今洗い物とか洗濯物終わらせちゃったから、行けるとこなら車で行こうよ。」


俺の口はいっぱいだった。

でもまた一口頬張った。


そして全部のみ飲んだ。

それは全部喉に一気につっかえて、涙がでた。


飲み込んだ俺は「どこでもいい。」と答えていた。

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