第60話 既視感

あまりに脈絡が無い話でたじろぐ。

「えっと、何の話でしょう。」


「バイトだよ、バイト。覚えてるか?大林だよ。」


少しゾッとして、車道を眺めていた俺は急いで後ろを振り返る。

誰もいないのは分かっていた、だがもし、背後を取られていたら。

俺は何をされるか分からない。といったような考えがあった。


すると見慣れた光景だ。


豚骨ラーメンの刺激臭。

少し外にまで聞こえる調理音。

暗く長い路地。


俺の胸に住んだおぞましい怪物は大林によって叩き起こされた。

似たようなものを感じた。


俺は急いで電話を切る。

そして、走って店に戻り、少しずつ気持ちを落ち着かせながら父さんの横に座る。


父さんは少し横目で俺を見たが、何も言わなかった。


俺は父さんに守ってもらいたかったのだろう。

父さんの横にいれば落ち着けたのだろう。

父さんなら、と思ったのだろう。


野菜たっぷりラーメンの具が炒められている音は、俺の耳を支配してくれた。

しかしそれくらいが心地よかった。


俺の携帯はなり続けていた。

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