侘しさ

第27話 人生ドラマ

それからしばらくすると、看護師が来た。


白が基調のピンクのラインが入った可愛らしい白衣を着ている。


「あら!?起きたのっ!?」


相当な驚きようだったが、俺は何も話さなかった。

何も話さないんじゃなく、何も話せなかったんだ。


看護師は、持ってきたタオルとお湯の入ったボウルを置くと廊下に出て「半澤せんせ!」と呼んだ。

それからまた部屋に入ると、タオルで「失礼しますね〜」と言って俺の腕や足を拭いた。


「何時から起きてる?」とか「痛いところはない?」とか聞かれているうちに、半澤 拓人という名札をつけた白衣の男が入ってくる。


「おぉ。起きたのか、すごいね。」


そう言って僕の前でしゃがんで、僕と目を合わせる。

胸ポケットから黒いボールペンを取りだして、「これ、目で追って。」と言うなり、それを上下左右に動かす。


「問題ないね。」


半澤はそう言うと、カルテを持ってくる。と言って病室を出る。

それでも看護師は身体を拭き続ける。


「痛かったら言ってくださいね。」


「…ぁい」

声が上手く出ない、きっと長い間喉を使わなかったからだ。


俺をあらかた拭き終わると、「ご飯、食べれそう?」と聞いてくれた。

声が出ない俺は静かに頷いた。

まるで病人のようだ、いや、病人なのか。

体に痛みなどの異常がないし、今のところ特に困りそうなこともない。


看護師が出ていった。

外で雀が鳴いている、寒いな。

きっともう冬だ。


あ、文化祭どうなったんだろう。

俺は出られなかったけど、他の人はどうしたんだろう。

確か、演劇やりたい人が少なかったから、少ない人員でどうにかするしかなくて、役を少なくしたんだよな。


それでも多かったから、一人三役くらいもってたはず、

俺は主役とヒロインのお父さんと、あとは…誰だっけ。


物語のあらすじは、異国からの移民のヒロインを唯一受け入れたうえで平等な優しさをもって接したのが主人公。

そんな主人公にヒロインは惹かれたけど、お父さんは主人公の事が大嫌いで、顔を見るだけでも嫌だと言う。

ヒロインはそこで駆け落ちを計画した。

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