第106話 渇望
でも僕は、一言話すことで精一杯。
あいつらみたいに世間話だとか、遊びの誘いだとかを出来たことがない。
挨拶、それで精一杯だ。
僕は雛子さんにしか挨拶をしない。
雛子さんしか笑って返してくれないから。
雛子さんだけが。
雛子さんだけは笑って返してくれるから。
雛子さんの触ったところに触れたい。
雛子さんの手に触れたいなんて我儘は言わないけど、触ったところ、物は触っていたい。
雛子さんは毎日、緑の可愛らしいお弁当箱でお弁当を食べていて、箸もセットの物だから毎日使っている。
この前雛子さんがお弁当を食べている途中に飲み物を買いに誘われて買いに行った時。
雛子さんと同じ委員会に入った僕は、雛子さんが委員会で昼食の時間が遅れたことを知っているし。
僕もそうだ。
周りには誰もいない。
僕は立ち上がって。
雛子の席まで行った。
胸が麻痺していた気がする。
歩く度に心臓は跳ねて、胸がぴりぴりしていた気がした。
地面が足に着く度、足にどくどくと血が流れているのが分かる。
妙に寒さだとか、そういうものを繊細に感じ取った。
でも僕は、雛子さんの箸を取って、口に入れた。
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